フレイ/ルージュルート
[艦隊再編中]
27
キラが居た。
ストライクとは違うMSのコクピットで、俯いて、哭いているキラが居た。
「どうしたの、……キラ?」
「フレイ。僕は、ぼくはッ、フレイ……ッ!」
「キラ……」
そっと手を伸ばす。どうしてだか、彼の涙は胸が締め付けられるように切ない。
可哀相なキラ、一人ぼっちのキラ、戦って辛くて、守れなくて辛くて、すぐ泣いて。
だから。
「だいじょうぶ。あなたはもう、なかないで」
「フレイ……っ?」
「守るから。ほんとうの……私の想いが、あなたを守るから。だから私、キラ……っ」
視界が滲む。キラの姿が見えなくなっていく。
やっと逢えた。そう思ったのに。
まだ足りない。想いを伝え切れてない。返事を貰ってない。もっと傍に居たいのに――!
「…………」
少しだけ見慣れたドミニオンの医務室、その天井を見ているのだと知ったとき。
フレイは自分がまだ生きていて、ゆめをみていたのだと感じ取った。
泣いていたのだと、分かった。
「……キラ」
切ない吐息の中に、どうしても彼の名前が混ざってしまう。
やりきれない想いを拭うように、フレイは細く白い指を瞼から目元に這わせた。
微かに濡れる指先。身体を丸めて横向きになって、じっとそれを見つめる。
「…………?」
そこで、初めてフレイは違和感に気づいた。
視線の先に、スツールに座っている見慣れた青い軍服。地球連合軍の少年兵の姿が見える。
キラ? それともサイ、カズイ? いや違う。彼らはこの艦と同じかたちの艦に乗ってはいるけれど。この艦はアークエンジェルでは無いし、彼らは軍服を袖無しに改造したり襟ぐりを大きく開けて着崩したりはしない。
「サブナック少尉……? も、もしかして、ずっと、そこに?」
手元の文庫本から、僅かに頭が上がってこちらを見るオルガ・サブナック少尉。
3機の“G”兵器の1つ、X131カラミティのパイロット。
再び視線を落として、ページをめくる。彼は特に答えなかったが、その行動がフレイの問いを無言で肯定していた。
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「何だ、やっと起きたのか」
「…………!!」
恥ずかしさのあまり、フレイは反射的に寝返りを打ってオルガの姿を視界から外した。もちろんそんなことをしても何の意味も無いと頭では分かっているのだが、たぶん真っ赤になっている顔だけは見られたくない。そう思ったのだ。
「1つ、聞かせろ」
「なっ、何でアンタがこんなところにいるのよ……」
溜息をつくと、オルガは持っていた文庫本を床に投げ出した。居住区にかけられている人工重力に引かれ、ばさりと紙の落ち広がる音が聞こえる。
「覚えてないのか? お前、核ミサイルを誤射した後で気絶しただろうが」
「…………」
「弱っち過ぎンだよ、お前。だいたい、ドミニオンまで引っ張ってくるのだって骨折れだったんだぜ? 何度放り出そうと思ったか分かるか?」
「……う、あ」
気まずさにますます身体を縮めながら、フレイはちらりとオルガの方を見た。
だるそうに本と両足を投げ出し、腕を頭の後ろに組み、面白くもなさそうに自分を見ている少年の姿。何か言わなきゃ。そう思った時に口を突いて出たのは、お礼の言葉だった。
「その、あ、ありがと……」
「……っ、命令じゃなきゃ、ンなことやってない。勘違いするな!」
ガラにも無く照れてそっぽを向きながら、表向きだけ否定の言葉を並べるオルガ。
そんな彼の姿に、不覚にもフレイは思わずクスクスと笑いをこぼしてしまう。
「何がおかしい、お前ッ?!」
「ご、ごめんなさい。……その、何だか意外だったから」
ずっと、戦うばかりで怖い姿しか知らなかったから。
そう続けようとして、フレイは言葉を飲み込んだ。何だかこれは、言ってはいけないことのような気がしたのだ。言えばきっと、彼はキラのように傷ついてしまうだろう。コーディネイターだからって、本気で戦ってないと彼をなじって傷つけてしまった時のように。
「ええっと、それで……」
「?」
「あの、聞きたいことって」
「ん、ああ」
上体を起こして、聞き返すフレイ。思い直したように、いつもの仏頂面に戻るオルガ。
ただ、何故か彼が垣間見せた感情の揺れは消えていない。不思議と、フレイはそんな風に感じていた。
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「キラって、何だ?」
「!」
「お前、時々言ってるだろう。……MSに乗ってる時とか、今も寝言で言ってたぜ」
「!!」
やはり“G”のパイロットは一筋縄ではいかないのか。
あまりと言えばあまりなオルガの不意打ちに、顔と思考が茹で上がっていく。
どう答えよう? いや、そもそも地球軍の“G”兵器乗りでコーディネイター絶滅を掲げるブルーコスモスの盟主アズラエルの子飼いで、それでも命令だからと自分を守ってくれた少年に、どんな言葉でキラと自分のことを説明すればいいのか。
「〜〜〜〜っ!」
「…………」
困惑、焦り、怒り、戸惑い、羞恥、迷い。様々な感情が表れては乱れ混じり、塗り替えられていくフレイの様子を、オルガは興味深げに黙って眺めていた。そしてふと、自分でも意外なことに口の端を歪め、笑っていたのである。
「ハハハ、面白いなァ、お前」
「ううう、うるさいわよッ!」
「いいぜ」
「?」
不意に立ち上がり、医務室を出て行こうとする“G”パイロットの広い背中を、きょとんした顔でフレイは見ていた。薬物とインプラントで強化され、並みのコーディネイター相手なら軽く捻り殺せるはずの後ろ姿に、本人は弱くて優しいキラの姿がどこか重なってしまうのは何故だろうか。
「無理に喋らなくてもいいぜ。まァ大方の見当はついたし、それにどの道、あと数時間もすりゃ出撃だろうしな」
「まだ、戦わなくちゃいけないの……どうして」
「止めてもいいぜ、お前。そうすりゃ気兼ねなく、あのフリーダムとキラってヤツを殺せるからな」
「な、っッ!!」
怒鳴り返そうとした瞬間、フレイの全身を激痛が走った。精神的、肉体的な疲労は栄養剤や鎮静剤の力を借りて取れたとしても、MSに乗り続けることで身体のあちこちには見えないダメージが蓄積する。ただのナチュラルである自分の場合、強化されているサブナック少尉たちとは違って簡単に治るはずもないのだ。
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「…………」
両肩を抱いたまま、オルガの出て行った医務室の扉をじっと凝視するフレイ。
ふと気がついて、床に目を転じた。彼が放り出したままの文庫本が、無言で何かを訴えているような感じがする。
ゆっくりとベッドサイドから足を下ろし、立ち上がった。まだ身体のあちこちに鈍痛が残っているが、しばらく経てば大丈夫だろう。
「これ、返してあげた方がいいのかしら」
身を屈め、少し顔をしかめて文庫本を拾い上げる。
ふと悪戯心が沸いたフレイは、ぱらぱらとページをめくって斜め読みを始めた。
「……な、何、これ? あの人、こんな本が好きなの?」
ちょっとした驚きに、目を丸くする。
それは古いジュブナイル小説だった。何の変哲も無い一人の少年が、ある日魔法の学校に入学し、自分のルーツと向き合い闘い、成長していく物語。2人の親友に助けられながら、自分が何者かを確かめていくストーリー。過去の名作ということで、フレイも名前だけは知っている有名な作品だった。
何度も読み返しているのだろう。その本には新品には出せない柔らかな手触りがあった。
「……っ」
何かに弾かれるように、もう一度オルガの出て行った扉を振り返るフレイ。
彼女も、ナタルから3人の“G”パイロットたちについては聞かされたことがあった。過去を消され、薬物とインプラントで強化され、MSの生体CPUとしてだけ生かされている存在。戦うことしか知らないはずのブーステッドマン。
だが、やはり彼らも人間なのだ。
自分が何者かを確かめたい。戦うこと以外の何かを掴みたい。そんな声にならない叫びが、ページの間から聞こえるような感覚。それはちょうど、自分の幼い奸計で戦わされて、殺し合いをせざるを得なくて、酷く傷ついていたキラの姿にも重なる。
「何よ……馬鹿、みたい。コーディネイターも、ナチュラルも……戦うこと、ばっかり考えてて、こんな、こんなの……っ」
フレイは泣いた。泣くことしかできなかった。
そして理解したのだ。オルガ・サブナック少尉がおそらく拠り所にしていた文庫本を投げ捨てて。少しだけ自惚れても良いのなら……その本を自分に託した、その意味を。
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ザフトの最終兵器“ジェネシス”により、戦力の半数を瞬時にして失ったプラント打撃艦隊。
ボアズ戦からの損害も含めれば、まともに戦力として数えられるのは当初の4割弱ほどだろうか。旗艦ワシントンを始め多くの艦とMSを失った第7機動艦隊はもはや艦隊としては解体状態にあり、後詰めで比較的傷の浅かった第3機動艦隊にしても、指揮系統の再編は容易でなかった。
「何とかここ、ボアズ宙域まで後退できたのです。ここは一度月基地まで戻り、第4、第6機動艦隊と合流。戦力の立て直しを計るべきだと愚考いたしますが」
「うむ、確かに貴官の意見は正しいが、バジルール少佐……」
「あー、そうだねそうだね。ほんっとーに愚考だね。馬鹿じゃないの、艦長さんはァ?」
旗艦ワシントンが撃沈された今、プラント打撃艦隊の実質上の司令官は第3機動艦隊を率いるウィリアム・サザーランド准将となっていた。一方、中核部隊を失った第7機動艦隊の実質的な最高責任者は、ドミニオンと前衛部隊を率いて最後まで戦線を支えたナタル・バジルール少佐となっている。
だが、この2人の軍人とは全く別の最高命令権者もまた、黒い主天使の艦橋にあって健在なのだ。
「しかしアズラエル様、現有戦力ではプラントどころか、ヤキン・ドゥーエ要塞を墜とすことも困難……」
「あー、もう黙れ黙れ黙れッ! 黙ってろサザーランド! ったく、冗談じゃない。これは今までノタクタやってたお前達、軍の怠慢のせいじゃないか!」
ぐッ、と押し黙るサザーランド。ナタルの鋭い視線もまるで意に介さず、興奮した口調でブルーコスモスの盟主は口角泡を飛ばし続ける。発射の記録からドミニオンに乗っている科学スタッフに検証でもさせたのだろう。アズラエルはジェネシスについて、最大出力では撃たれなかったこと、月も地球も射程に収まること、地球に撃たれれば一撃で致命的なダメージになりうることなど、様々な推測を並べてわめき散らした。
「あんなもの、残して行ける訳ないだろう? 何が“ナチュラルの野蛮な核”だ! あそこからでも地球を撃てる、ヤツらのトンデモ兵器の方が遥かにヤバいじゃないか! ……あんなもの造らせるほどグダグダしてたんだ。何としても、どんな手段を使っても、あれは絶対に破壊してもらう! 地球に撃たれる前に! もちろん、クソ忌々しい砂時計もまとめてだ!」
「……できると思われますか、准将」
「無茶な命令でも従うのが軍人だ。士官学校で習わなかったかね、少佐」
「…………」
興奮し、わめき続けるアズラエルは意図的に意識から外す。
スクリーン越しに、ナタルはサザーランド准将の表情を睨むように観察した。軍内部におけるブルーコスモスの幹部クラスの1人とは言え、ヨーロッパ方面軍を駆使し、ビクトリア基地のマスドライバーを無傷で奪還した程の名将である。その彼が、こんな無茶な作戦を何の勝算も無しに呑むとは思えなかったのだ。
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「バジルール少佐。確かに戦力不足を懸念し、勇気ある撤退を提示する君の意見は正しい。現場レベルの一艦長としてはな」
「……どういう、意味でしょうか」
「これを予想していたわけではないが。既に第6機動艦隊はこちらに向かっている」
「第6機動艦隊……フィッツジェラルド准将が?」
「そうだ。本来であればプラントを潰した後、ヤキン・ドゥーエを攻め切れなかった場合の保険として用意したのだがね」
驚きに目を見開いたナタルの横顔を、軽蔑に歪んだ笑顔で眺めるアズラエル。
さんざんわめいて落ち着いたのか、一つ肩を竦めると。ま、後は軍人さん同士ってことで、よろしく頼みますよ。などと言い捨てて艦橋を出て行く。ちょうどシャワーの時間なのだろう。
「しかし、あの……ジェネシスとかいう兵器、起爆信管のようなものでしょうか。交換と本体の冷却に要する時間は」
「僅かな情報だけでは何とも言い難いが、見たところあと半日というところだな」
「では、第6機動艦隊の合流をギリギリまで待って……」
「それも無理だ。再編成が終了し次第、我々は先に攻撃を開始する。なぜか分かるかね、少佐?」
反駁しようとしたところ、機先を制されたナタルは言葉に詰まった。
確かに、あの鉄骨タワーのような起爆信管を交換するのは、あれだけの巨大建造物だ、そうそう簡単には行かないはずだが……。
ふと、彼女の脳裏を何かがよぎる。あれは……そう、サハラ砂漠で“砂漠の虎”バルトフェルド隊と初めて戦った時のこと。キラ・ヤマトの駆るX105ストライクは当初、地上の覇者とまで言われたMSバクゥを相手に苦戦していた。ストライクを沙漠戦に対応させないまま戦っていたからだ。しかし、しばらく戦い続けた後、彼は突然……。
「まさか! 2射目にかかる時間は半日でも、3射目はもっと縮めてくると?!」
「さすがだな。だが、それがコーディネイターと云うものだ。敵を甘く見るなよバジルール少佐。おそらく3射目は純粋な冷却時間……数時間もあれば撃ってくるだろう。ちょうど第6艦隊と合流し、身動きの取れぬ我々なり地球なりをな。それではもう、全てが手遅れだ」
「!!」
改めてナタルは戦慄した。あのジェネシスという最終兵器の性能と脅威、それを瞬時に見抜いたサザーランド准将の慧眼とに、である。……思えばアラスカ、ジョシュアでのサイクロプス作戦を成功させてミリタリーバランスを地球軍側に揺り戻させたのも、量産型MSであるストライク・ダガーの生産体制を確立したのも、ビクトリア基地のマスドライバーを奪還してここまで反攻体勢を作り上げたのも、全てこの男の立案と実行によるところが大きい。
「…………」
それほど有能な指揮官が、よりにもよってブルーコスモスの幹部で、アズラエルのような戦略戦術など何も分かっていない軍需産業の若社長に唯々諾々と従っている。こんな理不尽な話があるか! とナタルは思った。そして思い出すのは、袂を別ったアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスの言葉。
「私たちは、今の地球軍の在り方そのものに疑問を持っているのよ、ナタル」
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沈黙したままのナタルを、どうやら納得したと見て取ったのか。
制帽を直しながら、サザーランド准将は普段の慇懃な表情をやや崩した。
「バジルール少佐、既に我々は手持ちの補給物資、核ミサイルはむろん9mmパラペラムの最後の1発まで使い潰した。この作戦に、もはや後は無い。理解しているとは思うが」
「……もちろんであります、准将」
「よろしい。では、我々は2射目が撃たれるであろうタイミングと同時に、ヤキン・ドゥーエ要塞へ総攻撃を仕掛ける。君のドミニオンと“G”兵器は我々の決戦兵力だ。ピースメーカー隊と共に先鋒を務めて貰いたい。目標は、ジェネシスだ」
「はッ!」
気を取り直し、敬礼するナタル。
確かに、今サザーランド准将が提示した作戦は、撤退しないことを前提にすればナタルの戦術観と一致していた。2射目の発射タイミングを見計らえば、射撃方向が読める分、プラント打撃艦隊への射撃であっても被害は最小限に食い止められる。そこから第6機動艦隊が追いつくまでの数時間が、勝負の分かれ目になるだろう。
「それから。これは小細工の部類に入るが、兵士たちの士気を上げるクスリを使うことにした」
「?!!」
突然のことに、息を呑むナタル。まさかMSパイロットたち全員にγ−グリフェプタンを投与するとでも言うのか? どこからそれだけの量を確保するのか、あるいは戦闘が終わった後のことをどう考えるのか。そこまで想像して背筋が冷える感覚をナタルは味わった。
地球軍は、プラント打撃艦隊はそこまで追い詰められているのかも知れない。
他ならぬサザーランドが言ったではないか。この作戦には、もう後が無いと。
「准将、しかしそれは……!」
「君の艦には必要の無いものだと思うが、ドミニオンのデータリンクには送ろう。確認しておけ。そちらに回すダガー隊のパイロットたちには見せておいて貰いたいからな」
「は……?」
見せる、というサザーランド准将の言葉を完全には理解しきれぬものの、どうやらクスリとは非人道的な薬物劇物の類ではなさそうと見て取り、ナタルはいちおう、承諾した。
第3機動艦隊との通信が切れてしばらく後、オペレーターからその“クスリ”とやらが届いた旨の報告が入る。
「これが、クスリだと……?」
それは5分ほどに編集された映像データだった。
内容を確認した時、ナタルの肩は僅かに怒りで震え、だが表情には自嘲の笑みが、瞳にはやるせない涙まで浮かんでいる。
「お笑い種、だな。……我が軍は、地球連合軍はこんなモノまで作って、戦争をしたがっているということか」
壊れたように、クックックと哂い続けるナタル。
その様子に、ブリッジクルーたちはどうしたものかと顔を見合わせるばかりであった。
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「私、MSのパイロットになります。パイロットになって……私も戦いたいんです!」
5分ほどに編集されたその映像データは、こんな台詞で始まる。
映っているのは16歳になったばかりの、真紅の髪の少女。テロップによれば、彼女は地球連合軍第7機動艦隊、機動特装艦アークエンジェル級2番艦“ドミニオン”に所属するMS、X115ストライク・ルージュのパイロットであり。
名を、フレイ・アルスターという。
今年の2月に戦死した、前大西洋連邦外務次官ジョージ・アルスターの一人娘との紹介が入る。
「私には、守りたいものはもうありません。でも、まだやりたいことはあります。こんな戦争は、もう一刻も早く終わらせたいって……ほんとうに思うんです。だから、私」
即席栽培のMSパイロット養成校を卒業後、フレイ・アルスターは5番目の“G”兵器と共にドミニオンへと配属された。同艦に所属するダガー隊との飛行訓練。対ザフトを想定した“G”兵器同士の模擬戦。そして初の実戦は、ザフト軍の宇宙要塞ボアズの攻略。
「了解。フレイ・アルスター、ストライク・ルージュ、行きます!」
初めて戦場に出た彼女は、そこで初めての実戦を経験する。
ザフト軍のMSジン2機を撃退し、ドミニオンに接近してきた敵の新型MSゲイツを、一騎打ちの末仕留める勇姿。
ちょうど彼女の髪を思わせる真紅の機体が、華麗な動きで漆黒の宇宙を舞う。
「くっ、このッ! こんなものッ!」
次の戦場は、ヤキン・ドゥーエ要塞、そしてプラントに至る宙域。
味方のダガーを瞬く間に2機墜としたエース級の機体を相手に、フレイ・アルスターの駆るストライク・ルージュは一歩も引かずに死闘を繰り広げる。ビームライフルを撃ち合い、回避し、シールドで捌き、至近距離で絡み合い、イーゲルシュテルンを叩き込み、互いのシールドで互いのビームサーベルを払い合う。
間合いを離したストライク・ルージュが撃ち放つビームライフル。カットが切り替わり、グリーンの火線に貫かれたゲイツが手も足も出ず、爆散する。その戦いぶりは、僅か1ヶ月でMSパイロットになった少女のものとは、とても思えなかった。
しかも彼女は、アラスカの惨劇を生き延び、どういう手段を使ってかザフト軍に潜り込み、NJC技術のデータが詰まった光ディスクと共にドミニオンに帰還した奇跡のヒロインなのだ。
「蒼き清浄なる世界のために! 彼女こそ、我らナチュラルに遣わされた希望の乙女(ジャンヌ・ダルク)なのだ!」
だから戦えと。
守るべき者が有る者は、彼ら彼女らが住まう地球を守るために。
守るべき者が無い者は、それでもなお健気に戦う、真紅の髪の少女を守るために。
撃ち放たれるジェネシスの禍々しい光。
次々と爆沈していく地球連合軍プラント打撃艦隊。
悪しきコーディネイターどもの思い上がった新兵器の前に、我々は手痛い敗北を喫し、一時退かざるを得なくなった。だが案ずるな。我々には黒い主天使と、3機の“G”兵器と、真紅のMSを駆る希望の乙女が居る。我々は負けられない戦いに挑み、そして勝利する。彼女の導きのもとに!
そんな言葉が流れる中、滑らかな機動でドミニオンの方へ戻っていくストライク・ルージュの機影。
5分ほどに編集された映像データはここで終わり、最後にもう一度、言葉が現れる。
「蒼き清浄なる世界のために! 我々は最後まで戦い抜くのだ。彼女とともに!」
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