羽と鎖、陽と風 1

「僕が、止めなくちゃ」
あなたは何度、その言葉を繰り返すのだろう。
「僕には止める責任が、あるんだ。…だから」
あなたに課せられるものは、いつも、とても大きい。
悩みながら、泣きながら、それでもあなたは立ち向かっていってしまう。
そして。

「……キラ…」

うっすらと開けた眼に、光が眩く降り注ぐ。
起き上がると、寝室のカーテンは既に開けられていた。
「あら…また、寝坊してしまいましたわ」
ラクスはベッドから身を起こし、長いピンクの髪をくるくるとまとめた。
居間の方から、規則的な羽音が聞こえてくる。


「おはようございます」
居間の入り口からの声に、フレイは振り向いた。
「起きた?紅茶、入ったわよ」
「トリィ」
ポットを片手に持つ彼女のうえを、トリィが弧を描いて飛び回る。
「あら」
「トリィ」
「また、朝食の準備をさせてしまったのですね」
ラクスが、申し訳なさそうに言う。
フレイは、自分のカップに紅茶を注ぐと、ポットを置いた。
「いいのよ。そんなの……」

そう、私が朝食の準備をしてあげるのだ。
キラが帰ってきたら。私が。
だからそれまでに、ちょっとはまともに台所に立てるようにならなくちゃ。
キラは朝に紅茶を飲むだろうか?牛乳?それともオレンジジュース?
私はまだ、そんなことも、知らない…。



羽と鎖、陽と風 2

「…フレイさん?」
うつむいたままのフレイの顔を、ラクスが心配そうに覗き込んだ。
「どうかなさいましたの?」
フレイは我に返った。思わず、見られてはならない所を見られたような気になり、 いささかつっけんどんに、言葉を返す。
「なっ、なんでもないわ」
「そうですか…でしたら、あの」
言いにくそうに口ごもるラクスに、フレイは苛立ちのこもった目を向けた。
「なによ」
ラクスは、意を決したように、フレイを真正面から見据える。
「さっきからなにか、焦げくさいにおいがするのですけれど」

「トリィ」

フレイは一瞬ぽかんとし、あわててトースターの方へ振り返った。
「なんで早く言ってくれないのよっ!」
怒気をはらんだ声を軽くあげつつ、彼女はトースターの脇のボタンを押した。
チャンッ、と音を立てて、ほんのりと茶色に焼けたトーストが跳ね上がる。
「もうっ!」
フレイは唇を尖らせた。
ラクスはそれを見て思わず、くすりと笑ってしまう。
「なによっ…見てないでさっさと座りなさいよっ」
「そうですわね」
やつあたりともとれるフレイの言葉をあっさりと流して、 ラクスは食卓の席についた。
「でしたらそのパンは、私がいただきますわ」
ラクスは優雅な手つきで、トーストをさっさと自分の皿にのせてしまう。
「いいわよっ」
フレイは手を伸ばすと、それをまた自分の皿に置きなおす。
「いえ、でも私、言うのが遅くなってしまいましたし…」
「焦がしたのは、…私、だもの」
両者はしばし、一枚のトーストをはさんで向かい合った。
先に、相手から視線を外したのはラクス。
彼女は、ふっと肩の力を抜くと、微笑む。
「…はんぶんこ、しましょうか」
「〜」
フレイはまだ何か言い募ろうとしていたが、 ラクスの笑顔に毒気を抜かれたのか、彼女もまた肩の力を抜いた。
「…そうね」
「トリィ」
トリィが、フレイの肩にとまった。


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