熱の隙間の悪い夢 1 部屋はとても静かなのに、フレイの体はずきずきと痛んだ。 「ふぅ…」 その場所をなぞると新たな熱が生まれ、やがてじんわりとしめって来る。 だから部屋に現れた気配もその存在が息を呑んだことも、すぐに気付かなかった。 (いっちゃう…) 自分のうちに出口がある気がした。それを追いつめたと思ったその時。 「フレイ…?」 突然外から聞こえた男の声に、フレイは現実に引き戻される。 目の前の人物の名を唱えようとした声は掠れてしまう。そしてまた彼も… 「はやく、おわったんだ…装丁だけで…あとは…だからもういいって…」 キラの声が掠れ、その視線はフレイに固定されている。 「いやぁッ!」 顔に熱が集中し、あたまがくらくらする。 キラは信じられなかった。自然息が荒くなる。 「こないでツやだぁ…」 「嫌!」 フレイの下肢があらわになる。下着がよれた隙間から陰部がのぞき、 「すごい…」 思わず漏らした声にフレイはまた弱い拒否の言葉を繰り返す。 まだだめと言うその唇の声を聞くこともできず 2 ... 早く自らで貫きたいという衝動を押さえるのは、 「すごいヌレてる…シーツまで、ホラ見て」 フレイの快感の壷を刺激すると、その腰ががくがくと浮く。 3 「あっ!ッー…」 がくんと腰が浮き、キラの指を膣壁が締め付けた。 「フレイ…いれるよ」 4 「ハ、やぁ、はんっ…駄目、止めて、だめエ!っつあゥ!」 激しく腰を打ち付けられながらのフレイの懇願はしかし、 キラは唐突に輸送をとめた。 「ホラ、こうするともっと奥まで繋がるよ」 「や!いゃ!」 ぎりぎりの理性で熱を放射する一瞬前にキラは、 5 なんであんなことしてしまったんだろう。 艦にのってからはまるでそんな気分ではなかったし、 6 激情にかられたキラはすごく乱暴にフレイを抱いた。 「はぁ、はぁ、フレイッフレイ…!」 キラは繰り返しフレイの名をよんだ。ひとみは涙に濡れていた。 「あっ…く…」 深く突き上げられて、フレイは過去から舞い戻った。 7 「キラ…苦しい…」 そう呟くとキラの動きが止まり腕が緩んだ。 キラの、この執着は多分、 けれど、キラの思いのすべてをフレイが知ることはない。 8 激しい疲労に肩で息をするフレイの火照った体をまた引き寄せると、 キラは見たかった。ほんとうの彼女を。 フレイの与えてくれた愛は唐突で、それを疑い無く信じることは彼には出来なかったのだ。 「っ…キラ、やめて…」 普通に抱いたのでは、フレイはキラの名を呼んではくれない。 羞恥と快感、それを与えればフレイは涙を流しキラと呼ぶ。 フレイの流す涙に胸が痛むのを感じながら、 9 揺れる肩は向こうを向いてしまい、 またこんなふうに抱いてしまった。また彼女を泣かせてしまった。 「っく…」 フレイの肩が震え、背を向けた彼女は、 泣かせたいわけではないのに。 しかし熱が醒めると、その素肌に触れることすら躊躇われる。 まだフレイを抱いた感触が残っていた。 「フ、フレイ…」 髪先を指に絡めると隙間から首筋が覗き、そこには赤い斑点があった。 キラはそれを知っている。 そしてそれが、すごく卑怯だということも。 10 「僕……」 「いいのよ。キラ。」 「わたしはいいの。あなたがそうしたいのなら。 キラに背を向けたまま、フレイは淡々と言葉を続けた。 もし食いちぎられようとも、甘んじてこの身を捧げるしかない。 キラが女であるフレイを開き、 11 緩んだ陰部から零れ落ちるものがまた不快感を与え、フレイはようやく身を起こす。 立ち上がろうとすると、腕を捕まれた。 「フレイ…」 先程の支配者の微笑みは微塵もない、 「フレイ…フレイ…ごめんよ」 「…いいのよ、キラ?泣かないで、良い子だから」 キラは泣きながらフレイをまたベッドに引き寄せた。そして彼女の唇を求める。 「うっん…」 舌で咥内を刺激され、フレイは甘い吐息を漏らす。 いいのよ。あなたには苦しんで、死んでもらうのだから。 かわいそうなキラ。 だから私が、慰めてあげる。 12 痛いほどにしがみつくキラの手を感じながら、フレイの意識は朝焼けに落ちた。 キラはフレイを後ろから抱き、その髪に顔を埋めた。 許されない罪から逃れるように、強く目を閉じて。 13 目を開けるとあるはずの人影はなく、 湯をかけると体のそこかしこが滲みた。特に陰部がひりひりとする。 大鏡に姿を写すと、ひどい顔だった。 「バカね…私。」 フレイは自嘲の笑みを零した。 キラはどんな顔をしたのだろう? もたもたと制服を着た。今日は髪を降ろす。首筋の痕が極力見えないようにと。 惨めだ…フレイは髪をとかしながら部屋を出た。 集合場所に集まって、指示をうける間も、フレイはぼうっとしてしまう。上官に叱咤されると慌てて配置についた。 「12番…粉乳、なつめ缶格20…問題なし」 そう言われてチェック項目に印をつけるだけの退屈な仕事だったが、それでも量だけは多い。 14 やっとの食堂に行くと、ちょうど誰もいなかった。 しかし食欲はない。ベーコンをつつくも、全く食は進まない。 サイはどうしてるだろうか、ふとそう思う。うす暗い部屋の中でパンだけだなんて可愛そうだ。私はどうせ食べたくないのだし、これをサイにあげられたらいいのに。 パパの選んだサイ。優しいサイ。 そんな考えに襲われて、フレイははっとした。 けれど、もし妊娠したら?フレイは下腹を服ごしに掴む。 軍にはそういったものもあると聞いたが…軍医に相談する気にもならなかった。 買い出しのついでにと頼んだけど、結局女の子と一緒だったし、 わたし、まちがっていますか? 答えは、無い…… 15 胸が苦しくなって席を立とうとすると、食堂のドアが開いた。 キラ。 一瞬、昨日の情事の断片が頭を掠めて、フレイは顔が熱くなるのを感じた。 隣に座っても、キラは喋らない。 「…みんな、は」 やっとキラが口をひらく。 「知らない。配属違うもの…カズイは夜勤だろうし。」 「そう…」 サイのことは言いたく無かった。 「キラ…」 「じゃあ、これ食べて。私、お腹空いてないし、勿体ないから」 そう言ってトレーを差し出すと、キラは席についた。 「うん、でも」 キラは苦い野菜が嫌いだった。 同じトレーから二人して黙々と食べる。 慣れてしまっただけかもしれないが。 昨日のキラの行為を、咎めるべきではないとフレイは思った。仕方ない。 けれどキラはフレイの降ろした髪の隙間に見える痕を見つけて、 「フレイ…あのさ」 そう言いかけた時、唇の端に柔らかいものが触れた。 「ソースがついてたわ?」 フレイは微笑む。 その思いが、衝動となってキラを襲い、フレイを毎夜苦しめているのだ。 だからキラは離れようとする唇を追い求め、深く重ねた。 部屋には同じ時間に戻れた。 「焦らないで、キラ」 するとキラは頷いて、フレレイの手を引きバスルームに入った。 ひどく、疲れていた。 満たされないままそれを追い続けるのはすごくつかれる。 体を折り畳んでフレイは泣いていた。 フレイにはわかっていた。このままじゃだめだと。 でもそれができない。恐かった。 「フレイ…」 フレイが躊躇ったから、キラが口を開くのが先になってしまう。 「僕、おかしいかな」 僕を一人にしないで。 「キラ…違うの」 フレイは涙するキラにそっと触れた。 「ごめんなさい……あなたを不安にさせて。 不安だから、いつもあんなふうに抱くのだろうか? キラは驚いたようにそれを見ると、こみあげてきたものにフレイを掻き寄せた。 明日の戦場に立つ為にも。 16 もう…どうしたらいいかなんてもう解らない。 フレイを部屋に残したままストライクの中にまた篭った。 ここで眠るといつも悪い夢を見る。だけどキラはここ以外に居場所を知らない。 ついでにプログラムを見直そう。こういったものはしすぎていけないということは無い。忘れたかった。自分を襲う孤独を。 明日か、明後日か。ごく近い内にあの人と戦うのだろう。そして殺さなければならない。または…殺されるか。 (フレイ…) フレイを守りたい。それは見返りを求めぬ慈悲でない。愛してくれるだろうか? 打算的な思いを振り切るように、キラはキーボードを叩いた。 17 話はこれより数時間前に遡る…… 細りゆく肉体と心を持て余しながらフレイは、サイのことをまた考えた。 処罰室に食事を持っていくのは交代で二名。 二人のあとを距離を持って追う。 18 (フレイ…?) たぶん、いや絶対そうだ。抜群の視力が恨めしい。気付きたくなかった…こんなときに。 ぐるぐると思考が巡って、キラは暗い部屋に一人佇む。 「なぁに、暗いままで?」 そう言ってフレイは電気をつける。 「あ…うん」 キラはもぞもぞと身を起こした。何気ないフレイを憎らしく思う。 「さっきは、どうしたの?」 キラの掠れた問いに、フレイはああ、と声をあげた。 キラの横に座ると、その肩に頭を置いた。 「サイ、馬鹿よね?」 「あなたに…叶う筈なんかないのに…馬鹿なんだから」 ほんとうに馬鹿だ。 フレイはその言葉とともに溜息をついた。するとキラの表情がみるみる暗くなる。 「キラ?どうしたの」 いつものように甘い言葉と口づけを与える。 また彼はフレイを抱いて、そしてまたいつもどおり。 ベットにおしたおすと、しかしキキラは抗った。 「…やめろよッ」 拒絶をあらわにすると、 キラはフフレイを独占したと、そう思っていた。 体を重ねるたび不安になったが、確かな温もりに溺れ、 キラはフレイを知っているつもりだった…誰よりも。そう自惚れていた。 絶望の中でもキラはなお願っていた。 フレイに愛されたい。フレイを…失いたくない。 19 砂漠での戦いにも少し慣れたが、それでも”虎”は強敵だった。 「もう退いてください」 キラは必死に無線で呼び掛ける。 (フェイズシフトが…落ちる!) 撤退を呼び掛けていたキラだが、 そう思った瞬間、急速に視界がクリアになり、 アサルトナイフを射出し、次の瞬間はラゴゥの背に突き立てていた。 爆音。 (殺した…) 震えとともに涙が溢れ、キラは叫んだ。 「キラ…」 ストライクが帰投したというアナナウンスを聞いて、 (きっと泣いてるわ…) 慰めてあげないといけない。拒絶されたのに? 整備クルーが騒々しく動き回るその中で、キラを探す。 「坊主なら、もうロッカーに…」 何度目かの呼び掛けにやっと応じてくれた 「キラッ!」 戸を開けるなり叫ぶと、まだスーツのまま座っているキラがいた。 驚いたように顔を上げた時、視線が交差するが、 フレイはかまわずキラの前に立った。 「大丈夫…?」 キラは俯いてしまって、その表情は読めなかったが多分泣き顔なのだと思った。 「………」 それは少し当たっていた。 愛されてはいないのに… 「何もいわないのね…私…」 フレイは背を向けて、ぽつりと呟いた。 「あなたが、泣いてると思ったから来たの」 そして抱き締められた。 「キラ?」 キラは息苦しかった。だからそれでも自分を律しようとする気持ちが、 震える唇をフレイの髪に押し付けると、 キラは呼吸を求めるように、それを吸った。 「んっ…、フレイ…フレイ…フレイッ!」 一度重ねてしまえば、必死に押さえた孤独が溢れ、キラは弱い心に支配されてしまう。 「キラ…」 フレイの声がキラの心を溶かす。 いけない。いけないと。 それでもキラはその唇をもとめ、懐かしい膨らみに手を添えた。 「キラ…?」 フレイはそろそろとキラの髪を撫でた。胸に感じるキラの指が求めてるものを知りながらに。 「うんっ…」 キラの唇がまた重なる。フレイは薄目をあけそれを見た。 「キ…駄目よここじゃ…」 悪戯をした子供のようにフレイは囁き声で告げた。 「キラってば」 キラはそう呟くとフレイの胸に顔を埋めた。 フレイの小さ過ぎる声は虚空へ消え、フレイは目を閉じる。 20 ロッカールームの中に男女の荒い息だけが響いた。 顔を見上げるとフレイは両目を堅く閉じていた。 指を差し込むとそこはもうとろけていた。 「ふっ……んんっ」 キラが囁くと、フレイは目を少しあけてキラを見た。 「キスして」 鼻がぶつかる距離でキラはそう囁く。 「んっ…」 キラが舌を押し出すとフレイは反応して小さな舌を持ち上げる。 咥内を激しく絡ませながらキラの指はたえずフレイの快感を呼び出す。 「足、浮かせて」 フレイへの答えの変わりに、キラはスーツをはだけた。 「ひっく…」 そのまま片足を抱いて全てを埋めきると、キラは息をついた。 「動くよ」 足は力を失い、フレイはキラに寄り掛かる恰好となっていた。 「つあうっ!!」 激しく突き上げられてフレイの思考は消し飛んだ。 「フレイ、…き…だ…よ」 キラは小さく呟いた。 好きだよ。君に縋るのは、もうこれで最後にするから。君を傷付けるのはもうやめるから。 だから今だけ、あと少しだけでいい、僕だけの君でいて。 キラはフレイにキスをすると、再び熱の中に落ちていった。 |
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