熱の隙間の悪い夢


1

部屋はとても静かなのに、フレイの体はずきずきと痛んだ。
でもそれは甘さを含む、内なる高ぶりだった。
おのずと、震える指を下着に這わせた。

「ふぅ…」

その場所をなぞると新たな熱が生まれ、やがてじんわりとしめって来る。
やがてもどかしい下着を割って指が直にそこに触れる。
静かな部屋の中には湿った音と荒い息遣いのみが響く。
フレイは身をちぢこませ眉を寄せて快感を追い求める。
それに必死で、自分が甘い声を上げていることすら聞こえない……

だから部屋に現れた気配もその存在が息を呑んだことも、すぐに気付かなかった。

(いっちゃう…)

自分のうちに出口がある気がした。それを追いつめたと思ったその時。

「フレイ…?」

突然外から聞こえた男の声に、フレイは現実に引き戻される。
弾かれたように振り向くと体を強張らせた。
「…、ッラ…」

目の前の人物の名を唱えようとした声は掠れてしまう。そしてまた彼も…

「はやく、おわったんだ…装丁だけで…あとは…だからもういいって…」

キラの声が掠れ、その視線はフレイに固定されている。
そして一歩踏み出す。それにひと怕遅れてフレイはシーツを掻き寄せた。

「いやぁッ!」

顔に熱が集中し、あたまがくらくらする。
ただフレイを支配するのは羞恥とそして恐怖だった。

キラは信じられなかった。自然息が荒くなる。
まさかフレイがこんなことするなんて…。
スーツの裾か見える脚のなまめかしさにごくりと息を呑んだ。

「こないでツやだぁ…」
泣きそうな悲鳴をあげるフレイの声がどこか遠くに聞こえて、
キラはその膝に手を置いた。そしてそのままシーツを引き下ろす。

「嫌!」

フレイの下肢があらわになる。下着がよれた隙間から陰部がのぞき、
そこは濡れそぼっていた。

「すごい…」

思わず漏らした声にフレイはまた弱い拒否の言葉を繰り返す。
しかし体には少しも力が入って無くて、
キラが両手で膝をわると造作もなく開かれた。

まだだめと言うその唇の声を聞くこともできず
キラは吸い寄せられるように濡れた秘部に触れた。



2

...
卑猥な音がはじまる。キラの息が荒くなる。
強弱や指の角度を調節してそこを責めると、
フレイの顔が苦悶に快感の交じったものになる。
キラはこの顔を見ると激しい情欲をそそられるのだ。

早く自らで貫きたいという衝動を押さえるのは、
彼の内に潜むある歪んだ感情、おそらくは支配欲だろうか。

「すごいヌレてる…シーツまで、ホラ見て」
「アッ…だめェ。やだ、やだぁキラァ」
「だったらなんで一人でシタの?」
「やっ違…あ、そこだめ!」

フレイの快感の壷を刺激すると、その腰ががくがくと浮く。
フレイの快感のすべてはキラがみつけたものなのだ。
どこをどうすれば感じるかキラは知っている。



3

「あっ!ッー…」

がくんと腰が浮き、キラの指を膣壁が締め付けた。
そのままぐったりとフレイはシーツに倒れ込んだ。
タンクトップごしに胸が上下している。
イッてしまったことを恥じる余裕もないのだろう。
すでにキラ自身が痛い程に高まっていた。
そのままフレイに覆いかぶさると、シャツを捲くり上げた。
桜色の先端を舌に絡めながら、キラはもどかしく自らの服を脱ぎ去った。

「フレイ…いれるよ」
貧るように重ねた唇の隙間でキラは囁いた。
「やっだめそんなの…」
おかしくなっちゃう、という言葉より先に、キラは激しくフレイを貫いた。



4

「ハ、やぁ、はんっ…駄目、止めて、だめエ!っつあゥ!」

激しく腰を打ち付けられながらのフレイの懇願はしかし、
キラの熱を煽るだけだった。
だからフレイにあらゆる快感を与える。
「だめ!変になっちゃうよお」
「なっていいよ、…見せて」
キラは掠れた声で囁いた。
そう、もっと見せて。僕の腕の中で狂うその顔が本当なら。

キラは唐突に輸送をとめた。
それに顔を持ち上げたフレイの脚を掴むと、自らの肩に乗せた。

「ホラ、こうするともっと奥まで繋がるよ」
キラはフレイと脚を交差させるような恰好なって、微笑んだ。

「や!いゃ!」
「当たってる。わかる?」
「やめて…、んっ、キラ、変よ!」
「君があんなことするから」
理性の箍が飛んでしまったのだ。
目を潤ませながら嬌声をあげる様を見下ろしながら、
キラは自身の限界が近づいているのを感じた。
そして一気に加速する。
「フレイ…フレイ!もう…」
「あ、んん…だ、め!キラだめえ!」

ぎりぎりの理性で熱を放射する一瞬前にキラは、
フレイの胸に放った。しかしまだその熱はなお、
彼に燻り続けるのだった。



5

なんであんなことしてしまったんだろう。
熱の間でフレイは考えた。今まで、そんなことをしたことがないといえば嘘になる。
でもそれは例えば興味や好奇心であって、
飲み込まれることはなかった。

艦にのってからはまるでそんな気分ではなかったし、
キラに抱かれてから暫くは、自分の裸を見るのも
嫌だったのに。
はじめての夜、フレイは拒めなかった。
キスをした唇に舌が割り込むのに驚いた時には
キラはもう子供のような彼ではなかった。
母親よろしく慰めていたフレイはたじろいだが、
それでも今拒絶することは許され無かった。



6

激情にかられたキラはすごく乱暴にフレイを抱いた。
いや実際は慣れて無い故が大半だったろう、
捕まれた裸の胸が痛く、そして割り込んでくる指が彼女を裂いた。
まるで犯されているような気分だった。

「はぁ、はぁ、フレイッフレイ…!」

キラは繰り返しフレイの名をよんだ。ひとみは涙に濡れていた。

「あっ…く…」

深く突き上げられて、フレイは過去から舞い戻った。
しかししてることは同じだ。
ただいつからか覚えた快感の揺るぎを伴って彼女を襲う。
座位のまま腰を抱かれてフレイはまた鳴いた。
脚を投げ出し、キラの肩に爪を立てる。その唇をキラは求める。
呼吸を呑みこまんとする強さに、フレイは顔を背けた。



7

「キラ…苦しい…」

そう呟くとキラの動きが止まり腕が緩んだ。
フレイはそれにほっとして、溜息をついた。
…もう何度目だろう。
キラはまるで疲れというものを知らず、フレイを貪欲に求めた。
フレイが逃げようとするほど強く抱き締め、逃がさないようにした。

キラの、この執着は多分、
普段抱えている不安や孤独によるものだろう…
とフレイは考えていた。
そしてそれは大半で当たっていた。
キラはフレイを失うことを恐れ、そして彼女に逃避し、
熱の中ですべてを忘れようとしていた。

けれど、キラの思いのすべてをフレイが知ることはない。



8

激しい疲労に肩で息をするフレイの火照った体をまた引き寄せると、
キラはその耳朶を噛んだ。

キラは見たかった。ほんとうの彼女を。

フレイの与えてくれた愛は唐突で、それを疑い無く信じることは彼には出来なかったのだ。
でもそれでも、フレイの温もりはたしかにここにあって、
キラはそれに溺れていればよかった。最初のうちは。
でも近頃はいろんな事が見えて来た。見えて来るにつれ、
闇雲に縋った少女のひとみが虚に揺れることに気付いてしまった。

「っ…キラ、やめて…」

普通に抱いたのでは、フレイはキラの名を呼んではくれない。

羞恥と快感、それを与えればフレイは涙を流しキラと呼ぶ。
すると確かに今彼女を抱いているのは自分だと確認されるのだ。

フレイの流す涙に胸が痛むのを感じながら、
それでもキラは止めることができずにいた……



9

揺れる肩は向こうを向いてしまい、
キラはその白い背中を眺めていた。

またこんなふうに抱いてしまった。また彼女を泣かせてしまった。
熱の海での高揚感のあとキラを襲うのは、
虚しい喪失感だった。

「っく…」

フレイの肩が震え、背を向けた彼女は、
泣いてるのではないかと思う。

泣かせたいわけではないのに。

しかし熱が醒めると、その素肌に触れることすら躊躇われる。

まだフレイを抱いた感触が残っていた。
キラは恐る恐る、フレイの髪にふれた。

「フ、フレイ…」

髪先を指に絡めると隙間から首筋が覗き、そこには赤い斑点があった。
キラが噛んだ痕だった。
フレイはそれをすごく嫌がるのに、
キラの腕の中に入ってしまえば逃げることは叶わない。

キラはそれを知っている。

そしてそれが、すごく卑怯だということも。



10

「僕……」

「いいのよ。キラ。」
「フレイ?」

「わたしはいいの。あなたがそうしたいのなら。
辛いのよね?あなたはすごく頑張って、辛いことを続けなきゃならないもの。
私たちのために。
だから私があなたのためになることなら、なんだってしてあげたいの…」

キラに背を向けたまま、フレイは淡々と言葉を続けた。
それは幾度となく繰り返した呪文だった。キラという番犬を繋ぐ鎖。

もし食いちぎられようとも、甘んじてこの身を捧げるしかない。

キラが女であるフレイを開き、
繰り返し自覚させるとしても、なお。



11

緩んだ陰部から零れ落ちるものがまた不快感を与え、フレイはようやく身を起こす。

立ち上がろうとすると、腕を捕まれた。

「フレイ…」

先程の支配者の微笑みは微塵もない、
濡れた子犬のような瞳でキラはフレイを見上げる。そしてそのまま抱き寄せた。

「フレイ…フレイ…ごめんよ」

「…いいのよ、キラ?泣かないで、良い子だから」
「でも、僕…フレイが」

キラは泣きながらフレイをまたベッドに引き寄せた。そして彼女の唇を求める。

「うっん…」

舌で咥内を刺激され、フレイは甘い吐息を漏らす。

いいのよ。あなたには苦しんで、死んでもらうのだから。

かわいそうなキラ。

だから私が、慰めてあげる。



12

痛いほどにしがみつくキラの手を感じながら、フレイの意識は朝焼けに落ちた。

キラはフレイを後ろから抱き、その髪に顔を埋めた。

許されない罪から逃れるように、強く目を閉じて。



13

目を開けるとあるはずの人影はなく、
フレイはそれに安堵して体をおこした。
全身にけだるい痛みが残り、体がやけに重い。
引きずるようにバスルームに向かう。


湯をかけると体のそこかしこが滲みた。特に陰部がひりひりとする。
一体昨日は何度したのだろう?

大鏡に姿を写すと、ひどい顔だった。
首から胸にかけて腫れたような痕がある。

「バカね…私。」

フレイは自嘲の笑みを零した。
しかし鏡の向こうの少女は、泣いていた。

キラはどんな顔をしたのだろう?

もたもたと制服を着た。今日は髪を降ろす。首筋の痕が極力見えないようにと。

惨めだ…フレイは髪をとかしながら部屋を出た。


集合場所に集まって、指示をうける間も、フレイはぼうっとしてしまう。上官に叱咤されると慌てて配置についた。

「12番…粉乳、なつめ缶格20…問題なし」

そう言われてチェック項目に印をつけるだけの退屈な仕事だったが、それでも量だけは多い。



14

やっとの食堂に行くと、ちょうど誰もいなかった。
厨房のシャッターも閉まっている。
ホットカートのトレイをひとつ出し、最近アフリカめいた遅いランチを取る。

しかし食欲はない。ベーコンをつつくも、全く食は進まない。

サイはどうしてるだろうか、ふとそう思う。うす暗い部屋の中でパンだけだなんて可愛そうだ。私はどうせ食べたくないのだし、これをサイにあげられたらいいのに。

パパの選んだサイ。優しいサイ。
彼とあのままいずれ恋人になったなら、こんなに苦しい事も無かったのに。

そんな考えに襲われて、フレイははっとした。
今更何を考えているのか?
憎い憎いコーディネーターをこの世からなくして戦争を終えなくてはいけないのに。
そのためにキラを選んで、そして彼の求めに応じて抱かれもする。
キラを縛って置くのにこの体が必要なら、それで構わない。

けれど、もし妊娠したら?フレイは下腹を服ごしに掴む。
キラもフレイも、避妊具を持っていない。

軍にはそういったものもあると聞いたが…軍医に相談する気にもならなかった。

買い出しのついでにと頼んだけど、結局女の子と一緒だったし、
途中事件があったというから、無理だったのだ。
こんな筈じゃ無かった、…パパ。

わたし、まちがっていますか?


答えは、無い……



15

胸が苦しくなって席を立とうとすると、食堂のドアが開いた。
入って着た人物にフレイはたじろぐ。

キラ。

一瞬、昨日の情事の断片が頭を掠めて、フレイは顔が熱くなるのを感じた。
それはキラも同じで、うつむきながらこちらへ歩いてくる。

隣に座っても、キラは喋らない。
重い沈黙が流れた。

「…みんな、は」

やっとキラが口をひらく。

「知らない。配属違うもの…カズイは夜勤だろうし。」

「そう…」

サイのことは言いたく無かった。

「キラ…」
「えっ?」
「食べないの?」
「え、ああ…そうだね」
席を立とうとしたキラの手を掴む。

「じゃあ、これ食べて。私、お腹空いてないし、勿体ないから」

そう言ってトレーを差し出すと、キラは席についた。

「うん、でも」
「インゲンは私が食べてあげるから。キラ苦手でしょ?」

キラは苦い野菜が嫌いだった。
フレイはそんなことも知っている。


同じトレーから二人して黙々と食べる。
コーディネーターとこんなふうに食べるなんてすごく恐いとフレイは思っていた。
でも今は気にならない。

慣れてしまっただけかもしれないが。

昨日のキラの行為を、咎めるべきではないとフレイは思った。仕方ない。
このくらい、なんでもない。私は大丈夫だ。

けれどキラはフレイの降ろした髪の隙間に見える痕を見つけて、
急いで目を反らした。

「フレイ…あのさ」

そう言いかけた時、唇の端に柔らかいものが触れた。

「ソースがついてたわ?」

フレイは微笑む。
しかしそれは疲労した弱々しい笑みで、ますますキラの胸を締め付けた。
無理をしてる笑顔。
こんなものがみたいわけじゃない。
ただ自分を愛してほしいだけなのに。

その思いが、衝動となってキラを襲い、フレイを毎夜苦しめているのだ。
でもキラは止められない。手放せるはずがない。

だからキラは離れようとする唇を追い求め、深く重ねた。
フレイの口は彼の嫌う苦さがあったのに、
それでも途方もなく甘く、キラはまたそれに溺れたいと願う。


部屋には同じ時間に戻れた。
髪をかきあげピンでとめると白いうなじが見えて、気付けばまた後ろから抱き締めていた。

「焦らないで、キラ」
フレイの声が聞こえる。
「汗かいたもの、シャワーしたいの」

するとキラは頷いて、フレレイの手を引きバスルームに入った。


ひどく、疲れていた。

満たされないままそれを追い続けるのはすごくつかれる。
空虚な行動をひた繰り返す、砂漠での日々。
それはふたりを追い詰め、そして消耗させていった。

体を折り畳んでフレイは泣いていた。
悲しいし苦しい。体には性行為の余韻。キラは俯いたままだった。

フレイにはわかっていた。このままじゃだめだと。
いわないと、ごめんなさいと…ちょってびっくりしただけだと笑って。

でもそれができない。恐かった。
そして悲しい。もう…嫌だ。

「フレイ…」

フレイが躊躇ったから、キラが口を開くのが先になってしまう。

「僕、おかしいかな」
「?」
「不安なんだ。君が僕のものなんて、信じられなくて。
こんな…でも君がいやなら、もうしないよ、しないから、お願いだフレイ」

僕を一人にしないで。
キラは孤独を恐れている。フレイと同じように。
フレイはそれに涙を止めた。

「キラ…違うの」

フレイは涙するキラにそっと触れた。
彼が弱くあるとき、フレイはいつだって驚く程優しくなれた。

「ごめんなさい……あなたを不安にさせて。
私はずっとここにいるのよ、変わらずに…ずっと。
そしてあなたを思うわ」

不安だから、いつもあんなふうに抱くのだろうか?
なんて馬鹿なコーディネーター。
フレイは嘲笑を慈愛の微笑みにかえてキラの涙を吸った。

キラは驚いたようにそれを見ると、こみあげてきたものにフレイを掻き寄せた。
これはぼろぼろだ。
フレイは思った。
だから私が守ってあげないといけない。


明日の戦場に立つ為にも。



16

もう…どうしたらいいかなんてもう解らない。

フレイを部屋に残したままストライクの中にまた篭った。

ここで眠るといつも悪い夢を見る。だけどキラはここ以外に居場所を知らない。

ついでにプログラムを見直そう。こういったものはしすぎていけないということは無い。忘れたかった。自分を襲う孤独を。

明日か、明後日か。ごく近い内にあの人と戦うのだろう。そして殺さなければならない。または…殺されるか。
それは許され無かった。自分が死ねば終わりなのだ。すべて。

(フレイ…)

フレイを守りたい。それは見返りを求めぬ慈悲でない。愛してくれるだろうか?

打算的な思いを振り切るように、キラはキーボードを叩いた。



17

話はこれより数時間前に遡る……

細りゆく肉体と心を持て余しながらフレイは、サイのことをまた考えた。
彼はフレイにとって庇護を求める対象であり、顔を見て何が変わるわけでもないのに、でも縋りたいと思った。

処罰室に食事を持っていくのは交代で二名。
フレイにその当番はまわってこなかった。
そして今日の当番はカズイと、キラだった。

二人のあとを距離を持って追う。
その扉の開く一瞬に見える筈もないのに、気付けば目を懲らしていた。
するとキラの目がこちらを向いた気がした。
心臓を捕まれたようにフレイは驚き、身を翻し持ち場に戻った。



18

(フレイ…?)

たぶん、いや絶対そうだ。抜群の視力が恨めしい。気付きたくなかった…こんなときに。
胸の内に嫉妬が猛る。なんで今更。サイに何の用だろう?
君は僕のものだと、そう言ったのに…

ぐるぐると思考が巡って、キラは暗い部屋に一人佇む。
すると通信と同時に見慣れたシルエットが移った。

「なぁに、暗いままで?」

そう言ってフレイは電気をつける。

「あ…うん」

キラはもぞもぞと身を起こした。何気ないフレイを憎らしく思う。
だからつい口から出た。

「さっきは、どうしたの?」
「え?」
「サイのところ…来てたでしょ」



キラの掠れた問いに、フレイはああ、と声をあげた。
やっぱり気付かれていた。

キラの横に座ると、その肩に頭を置いた。
なんだか一人はいやだった。

「サイ、馬鹿よね?」
「えっ」

「あなたに…叶う筈なんかないのに…馬鹿なんだから」

ほんとうに馬鹿だ。
サイは優しくて、ナチュラルなのに。
この孤独なコーディネーターに叶うわけはない。
そんなわけ…ないのに。だから私はいまここにいるのに。


フレイはその言葉とともに溜息をついた。するとキラの表情がみるみる暗くなる。

「キラ?どうしたの」
顔を覗き込もうとするとキラはふいと反らす。
なにかいけないことをしてしまったのだろうか。
そう感じると、フレイはキラに縋り付いていた。

いつものように甘い言葉と口づけを与える。
これで落ち着くはずだった。

また彼はフレイを抱いて、そしてまたいつもどおり。

ベットにおしたおすと、しかしキキラは抗った。

「…やめろよッ」

拒絶をあらわにすると、
キラは部屋を飛び出した。フレイが自分の名を呼ぶのが聞こえる。

キラはフフレイを独占したと、そう思っていた。

体を重ねるたび不安になったが、確かな温もりに溺れ、
またフレイを求めた。

キラはフレイを知っているつもりだった…誰よりも。そう自惚れていた。
だけどそれが何だ?フレイは今もサイが好きなんだ。
じゃあ何故自自分に抱かれたんだろう?わからない。
同情だろうか、それとも。

絶望の中でもキラはなお願っていた。
愛して欲しい。僕を。そのためにどうしたらいい?

フレイに愛されたい。フレイを…失いたくない。
たとえそれが偽りだとしても、いつか本当に愛してくれるだろうか?



19

砂漠での戦いにも少し慣れたが、それでも”虎”は強敵だった。

「もう退いてください」

キラは必死に無線で呼び掛ける。
しかし虎は聞き入れなかった。

(フェイズシフトが…落ちる!)

撤退を呼び掛けていたキラだが、
装甲保持が危険域に入る警告音に息を呑む。
このままでは、やられる!

そう思った瞬間、急速に視界がクリアになり、
聴覚が研ぎ澄まされる。アラームと爆音と汗のしたり落ちる音すべてが別々に認識され、
敵機の砂を踏む音、ギミックの軋みそれぞれまで聞こえそうだった。

アサルトナイフを射出し、次の瞬間はラゴゥの背に突き立てていた。

爆音。

(殺した…)

震えとともに涙が溢れ、キラは叫んだ。


「キラ…」

ストライクが帰投したというアナナウンスを聞いて、
フレイは駆け足にブリッジに向かった。

(きっと泣いてるわ…)

慰めてあげないといけない。拒絶されたのに?
しかしそれでも今、キラにはフレイが必要なはずだ。
フレイがそうであるように。

整備クルーが騒々しく動き回るその中で、キラを探す。

「坊主なら、もうロッカーに…」

何度目かの呼び掛けにやっと応じてくれた
整備士に礼もそこそこにフレイは駆け出した。

「キラッ!」

戸を開けるなり叫ぶと、まだスーツのまま座っているキラがいた。
「フレイ…なんで」

驚いたように顔を上げた時、視線が交差するが、
すぐにキラはそれを反らす。

フレイはかまわずキラの前に立った。

「大丈夫…?」

キラは俯いてしまって、その表情は読めなかったが多分泣き顔なのだと思った。

「………」
「来ちゃいけなかった?私がいると、キラは迷惑かしら…今」

それは少し当たっていた。
こんな余裕の無い状況で見たくない。
またフレイに縋ってしまうからだ。

愛されてはいないのに…
それすら無視して、彼女に溺れ、占有したくなる暗い願望。
それはキラな心が弱れば弱るほど吹き出して来るのだ。

「何もいわないのね…私…」

フレイは背を向けて、ぽつりと呟いた。

「あなたが、泣いてると思ったから来たの」
でもいらなかったわね、
フレイはつまらなそうにそう言い残して部屋を出ようとした。
しかしその腕を捕まれる。

そして抱き締められた。

「キラ?」

キラは息苦しかった。だからそれでも自分を律しようとする気持ちが、
フレイの甘い言葉によってぐらりと揺らいだ。
いけない、いけないと思いながら、
縋る他に立っている術をキラは知らない。

震える唇をフレイの髪に押し付けると、
腕の中でフレイがこちらを向く。うすく開かれた唇。

キラは呼吸を求めるように、それを吸った。

「んっ…、フレイ…フレイ…フレイッ!」

一度重ねてしまえば、必死に押さえた孤独が溢れ、キラは弱い心に支配されてしまう。
またたえずフレイの唇を求めた。

「キラ…」

フレイの声がキラの心を溶かす。
頭の中でたえず警告が聞こえた。

いけない。いけないと。

それでもキラはその唇をもとめ、懐かしい膨らみに手を添えた。

「キラ…?」

フレイはそろそろとキラの髪を撫でた。胸に感じるキラの指が求めてるものを知りながらに。

「うんっ…」

キラの唇がまた重なる。フレイは薄目をあけそれを見た。
キラの手が慣れた仕種で軍服のボタンを外しきり、下着を持ち上げる。

「キ…駄目よここじゃ…」

悪戯をした子供のようにフレイは囁き声で告げた。

「キラってば」
「少しだけ…」

キラはそう呟くとフレイの胸に顔を埋めた。
「……ぃゃ」

フレイの小さ過ぎる声は虚空へ消え、フレイは目を閉じる。
襲いくる甘美な疼きと、堪え難い光景を見ない為に。



20

ロッカールームの中に男女の荒い息だけが響いた。
キラは殆ど無意識にフレイの太ももの隙間に手を延ばしていた。
つうとなぞれば、フレイの体がびくびくと跳ねる。

顔を見上げるとフレイは両目を堅く閉じていた。
キラはそれを悲しく思う。

指を差し込むとそこはもうとろけていた。
熱をもつ陰部をキラは弄ぶ。
するとフレイ反応する。しかし場所を気にしてか、唇を噛んでそれに耐える。

「ふっ……んんっ」
「誰も来ないよフレイ」

キラが囁くと、フレイは目を少しあけてキラを見た。

「キスして」

鼻がぶつかる距離でキラはそう囁く。
フレイは一瞬怯えたような目をしたが、そうっと唇を重ねた。

「んっ…」

キラが舌を押し出すとフレイは反応して小さな舌を持ち上げる。

咥内を激しく絡ませながらキラの指はたえずフレイの快感を呼び出す。
そしてキラはフレイの下着を引き下ろした。

「足、浮かせて」
「…っここで、するの?」
「フレイ…」

フレイへの答えの変わりに、キラはスーツをはだけた。
既に苦しいほどに張り詰めた自身を、
まるで出口のように思うフレイの濡れた秘部へと押し当てた。

「ひっく…」
「……フレ…イ」

そのまま片足を抱いて全てを埋めきると、キラは息をついた。

「動くよ」
「えっ…」

足は力を失い、フレイはキラに寄り掛かる恰好となっていた。
もうくたくただった。
キラだってその筈なのに。何故そこまでして?

「つあうっ!!」

激しく突き上げられてフレイの思考は消し飛んだ。
思わず大きな声を出したのが恥ずかしくて口を押さえる。

「フレイ、…き…だ…よ」

キラは小さく呟いた。

好きだよ。君に縋るのは、もうこれで最後にするから。君を傷付けるのはもうやめるから。
もし僕という存在が君を最も傷付けるのだとしたら……
僕は多分迷うけど、その時僕は一人で立ってみせるよ。
君があるべき所に帰れるように、もうすこし強くなる。答えを見つけてみる。

だから今だけ、あと少しだけでいい、僕だけの君でいて。

キラはフレイにキスをすると、再び熱の中に落ちていった。



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