温泉で逝こう! 1 「温泉なんて久しぶりよねえ」 フレイとカガリは湯船に浸かりながら思いっきり寛いでいた。寛ぎまくっている2人を見てラクスが微笑む。 「お2人とも、お疲れさまでした」 ここは温泉の女湯。週末に向ってが終わったことを祝してみんなで温泉旅行に来ているのだ。少し離れた所ではマリュ−がエリカとお猪口を手に談笑している。そのスタイルは凄まじいの一言に尽きた。 だが、今回は読者の方々には非常に残念だろうが、まずは野郎どものたむろする男湯のほうから覗いて見よう。 「あ−、生き返りますねえ」 仲良く温泉に浸かっているバルトフェルドとキサカ。 「まったく、ダコスタも来れば良かったのに」 温泉の魔力でおっさん化が進んでいる2人。そこにアスランがやってきた。 「あれ、お2人だけですか? 他の連中は?」 面子を言われたキサカはじっと考え、そっと女湯の方を見る。 「まさかな、ここから女湯までは相当距離があるし」 キサカの独り言にギギギギギギ・・・・・・・・と、機械的に顔を向けるアスラン・ 慌てて否定するキサカ。だが、バルトフェルドが何かを思い出す様に呟いた。 「そう言えば、昨日ディアッカがミラージュコロイドどうとか言っていたな」 アスランに首をしめられて揺さぶられるバルトフェルド。 「ま、待てアスラン。そんなこと言われても俺が知る分けないだろう!」 仕方なく手を離し、どうしたものかと天井を見上げる。 「で、でもまあ、あいつ等にそんなもの作れるわけが・・・・・・」 天井から湯船に滴が落ちた。 「しいいいいいいいいいいいいいいいいいまったああああああああああああああっ!!」 キラ達の思惑に気づかなかった自分を責めるように、アスランはムンクのように絶叫した。 「こうしちゃいられない!」 アスランは湯船を飛び出すと、急いで駆け出した。 「待ってろよ覗きども。お前等の好きにはさせない!」 2 時間は少し遡る・・・・・・・ 「ふ、俺は今日ほど、この装備に感謝したことは無い・・・・・・」 女湯との分岐点で、ディアッカは妖しげなジャケットを手に感涙の涙を流していた。 「このディアッカ・エルスマン。青春に一片の悔い無し!」 トールに肩を叩かれ、フラガに凄惨な笑顔で凄まれる。こいつ等は・・・・・・ 「そこまでだ!」 アニメチックに振り返ると、そこには1つの黄色いマスクを被った怪しい男が。 「ふっ、彼女持ちでありながら、婦女子の風呂を覗こうとは言語道断。貴様等の邪悪な野望は、この俺、ジュールマスクが許しはしない!」 怪しすぎるマスクを被った男がビシィと覗き集団を指差しつつ糾弾する。 「ちっ、知られたからには口封じを・・・・・・って、イザーク、お前こそ何でこんな所に?」 ここはすでに女湯へ向う通路である。野郎がこの場所にいるのは、非常に不自然なのだ。 「な、ななななななななななななにを言っているんだ!」 明らかに動揺しているジュールマスク・・・・・・・いや、イザーク。フッと渋く微笑むフラガ。 「恥じる事はないさ。それは健全な男子たるもの、誰もが抱く正常な反応だからな」 悟ってますね、フラガさん・・・・・・ 「漢は幾つになっても夢を追う生物なのだ。お前は自分を偽らなくてもいいんだ」 ガシィッと5人の漢は手を取り合った。 「「「「「覗きは漢の永遠の浪漫!!」」」」」 今ここに、漢達は分かりあったのだ。 「同士よ、さあ、これを着るんだ」 トールの差し出すジャケットを受け取るイザーク。それに袖をとおし、5人は同時に姿を消した。 乙女達、大ピンチ! 3 話は女湯に戻って・・・・・・ 「良い気持ちね・・・・・・本当、こんな気分も久しぶりだわ」 体を伸ばしてゆったりと湯に浸かるフレイの隣で、マリューが頭にタオルを載せて肩までを湯に沈め、幸せそうにしている。 「くそっ」 カガリが何やら敗北感に打ちのめされていた。 「辛そうですわね、カガリさん?」 突然真後ろから声をかけられて、びっくりして飛びあがる。一体何時のまに近づいたのだろうか? 「カガリさんはまだ成長途上ですから、気になさらずとも良いですよ」 何時もの良く分からない笑顔を浮かべ、ラクスは答えをはぐらかした。 そして、女湯に向う通路にて (フッフッフ・・・・・・もうじきだ・・・・・・) 誰も見えていない虚空にて、野郎どもは熱き思念だけで会話をしていた。もうテレパスである。 「そこまでだあああああああああああっ!!」 5人がそーっと振り向くと、遥か後方に大声を上げて立つ一人の少年の姿が。 「ニコルの遺産を悪用し、婦女子の入浴を覗こうとは言語道断! お前達の腐った根性を俺が叩き直してやる!!」 ビシィっと指を突きつけられて、5人は額に汗を流した。まさか、見えているというのだろうか? 「お客さん、困りますねえ。女湯に向けて絶叫されたりしては」 老人とは思えない力でズルズル引きづられて行くアスラン。やがて、その姿は完全に見えなくなった。 「ふっ、アスラン、相変わらず詰めが甘いね」 なにやら勝利のポーズを取る5人。だが、なにも見えないのでただ空しいだけだったりする 4 ごしごしごしごしごしごし・・・・・・・ジャバァァ! 「ふうっ」 泡だらけの体を洗い流して、再びカガリは溜息をついた。また胸に視線をやって・・・・・・ 「別に、小さくは無いと思うんだけどなあ」 そしてまた大きな溜息。 「はあ、神様、私、もうキサカに迷惑かけないようにするから、もう少し何とかしてくれないかな・・・・・・」 完全に呆れ声でフレイが突っ込む。だが、カガリは恨めしげにフレイを見上げて、涙目になって、やっぱり溜息を付いた。 「フレイに、私の悩みなんか分からないよ」 スタイル抜群の人は全て敵ですか? 「どうして私の方が年上なのに、こうまで差が出るのかな?」 トホホ顔で呟くカガリ。フレイは少し悩んでから答えた。 「やっぱり、体質じゃないかしら」 横からミリアミアが口を挟んできたが、その意見は迷信の一言で却下された。 「いいえ、皆さんは1つ、肝心なことを忘れてますわ」 返事をわくわくした顔で期待するカガリに、ラクスはフッと悟った顔で微笑む。 「それは・・・・・・」 女性4人が顔を寄せて来る中で・・・・・・ 「ずばり、経験の差ですわ」 ビッと人差し指を立てて意見するラクスに、皆はポカンとした顔を見せた。 「け、け、経験って、まさか・・・・・・」 直球勝負なラクスの発言にフレイが慌てふためく。 「では違うのですか・・・・・・・」 ラクスの鋭いツッコミに押し黙るフレイ。 「まあ、そうかもねえ」 そこで肯定しないで下さい、マリュ−さん 「でも安心してください、カガリさん。裏を返せばまだまだこれからと言うことです。アスランはあの通り臆病者の甲斐性無しですが、まだ希望がないわけじゃありません」 まんまと乗せられてるカガリ。フレイはジト目で突っ込んだ。 「なにを頑張る気よ、あんたは?」 なにやら恐ろしい事を笑顔でのたまうラクスさま。 「そうかなあ・・・・・・?」 首を傾げるミリアミアに問いかけるフレイ。 「アスラン君、胸無い方が好みかもしれないわよ」 ミリアミアの的確なツッコミに、彼女達は思わず言葉を失った。 5 乙女達の浴場に遂に欲望に塗れた獣達が現れた。だが、それに気付く者はいない。 ぶしゅゆううううううううううううっ!! 突如として透明な湯船の一点から赤い色が広がり出した。そのまま湯船が赤く染まっていく。 「な、なによ、これは? まさか心霊現象とかいうやつ!?」 慌てふためくフレイとミリアミア。こういうのが苦手らしいカガリはすでに湯船の外に避難している。そんな中で何かに気づいたマリュ−が辺りを見まわす。 「何かいるわ!?」 いきなり訳の分からない事を言われてパニ来るカガリ。そんなマリュ−の言葉を証明するかのように徐々に人影が露になりだした。男達は自分の姿がさらけ出された事に呆然としている。ちなみに湯船にはイザークが浮かんでいる。こいつだけ女に免疫が無かったのだ。哀れイザーク。いきなりフレイのナイスバディを間近で見たりするから。 「こ、これは一体?」 キラの悲鳴のような問い掛けにわざわざ恰好をつけて答えるディアッカ。それは死を前にした男のせめてもの矜持だろうか。 「キ・・・・・・キラ?」 それぞれのお相手が呆気に取られて名前を呼ぶ。 「な、何でお前等がいるんだよ!?」 恥ずかしさの余り無事な湯船に飛びこむカガリの声。 「うふふふ、まさか、覗きですか?」 すでに体にバスタオルを巻いてるラクス。何時の間に・・・・・・・ 尋常じゃない彼女の様子に、キラはビビリながらも声をかける。が、フレイは激怒の余り前を隠すのも忘れ、ギンと殺気の篭った目でキラを見た。 「キ〜〜ラ〜〜〜〜〜!?」 かくいうキラも見えていることさえも完全に失念するほどの恐怖に陥り、直立不動モードに。 「そおおおおおおおおおおおおおんなに見たいんだったら・・・・・・・」 右手を伸ばし、むんずとキラの首を握る。いけませんフレイさん、そこは止めを刺してしまいます。 「好きなだけ見せてあげようじゃないのぉぉ!! た・だ・し・・・・・・生きていられたらね!」 クルッとフレイは女の子達を振り返った。 「悪いけど、このクズの始末は私がさせてもらうわ・・・・・・」 誰も口には出せなかったが、恐怖に染まる目は「どーぞどーぞ」と言っている。 「そういう事で覚悟するのね・・・・・・死の」 キラの悲鳴に対する答えは無く、フレイはキラを引きずって湯煙と岩陰の向こうに消えていった。それの後に同じようにフラガを引きずるマリューが消えて行く。 「フレイの奴、物凄く怖かったな」 ラクスが頷く。因みにトールとディアッカはミリアミアの折檻を受けていたりする。時折「グレイトゥ!」 とか聞えるのは何なのだろうか? 6 そして、そこにようやくやってきた男が一人・・・・・・ 「そこまでだぁぁ!!」 やってきたのは、目隠しをしたアスランであった。 「ミラージュコロイドで女湯に忍び込み、婦女子の入浴を覗こうとは言語道断天罰覿面! そんな奴等は俺が纏めてあの世に送ってやる!」 カガリが呆然として呟く。現れたアスランにディアッカはミリアミアに踏みつけられながらも問いかけた。 「ば、馬鹿な、どうしてお前が?」 ディアッカの問い掛けにアスランはふっと声のするほうを見て答えた。 「決まっている。番台のおばあさんにひたすら頭を下げ、なんとか目隠しをすることで妥協してもらったのだ。おかげで何度体をぶつけたことか」 なんとも言えない苦労を積み重ねてたらしいアスラン。だが、彼は1つ致命的な間違いを犯していた。それは・・・・・・・ 「うふふ、アスラン。男の方が女湯に入ること自体がタブーなのであって、目隠しをしてもそれは変わりませんことよ?」 ラクスの指摘にぴたりと動きを止めるアスラン。確かにその通りである。 「アスラン、お前ってやつはあ!」 カガリの何処か悲しそうな声に、アスランはその場にガックリと膝を付いた。 「お、俺は間違っていたのか・・・・・・・」 そしてアスランはその場にあぐらをかくと、潔く処刑を受けると言いきった。それを聞いてラクスとカガリが顔を見合わせる。 「処刑って言っても、どうする?」 それは確実に殺してしまいます、ラクスさん。 「そうですわ、カガリさん、手伝ってください」 抵抗するつもりのないアスランは二人がかりで動けない様にしっかりと縛り上げられた。 「はい、カガリさん」 カガリは顔を赤く染めて、しっかりと受け取った。 「ちょっとまてえええええ! 今何耳打ちしたんだラクス――!?」 ラクスの死刑宣告とも取れる底冷えする声に、アスランは押し黙った。 「うふふ、頑張ろうな、アスラン!」 そして、後に残るは静けさ・・・・・・ちょっとアレな声が響いてるが、静かになった。トールとディアッカはすでに動かなくなり、イザークは鼻から大量出血したまま湯船に浮かんでいる。 「何を言ったのよ?」 この後、何があったのかは想像にお任せします・・・・・・・ 7 そして、誰もいなくなった女湯で・・・・・・ 「「「ふっ・・・・・・」」」 ガラガラと積み上げられていた洗面器の山が崩れる。中から現れたのはダコスタ、サイ、カズィであった。 「良いもの見させて貰ったぜ」 なんと、彼らは女性陣が女湯に入る前に突入、洗面器の山に埋もれて様子を見ていたのだ!! 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 完全に目が合う。ナタルは徐に荷物から拳銃を取りだし(何故そんな物をもってる?)、3人に向ける。 「貴様等・・・・・・こんな所で何をやっているのかああああああああ!!!」 おまけ 「いいですか君達、覗きにカメラは邪道です」 アズラエルと常夏はせっせと岩を登り、目指す桃源郷へと辿りついた。風が湯煙をそっと吹き流す。 「「「「おおおおお〜〜〜〜」」」」 そこにいたのは、ウズミ、ホムラ、ハルバートン、サザーランド、シーゲル、パトリックといったナイスミドルな叔父様方であった。 ピシィッ!!!! 4人はその場で化石と化してしまった。どうやら女湯へのルートを完全に間違えてしまっていたらしい。しかし、本編ではあれだけ対立していたのに、今は何とも気持ち良さそうにお酒を飲んでますねえ、みなさん 翌日、病院には多数の重傷者が担ぎこまれる異常事体が発生していた。特にキラ、アスラン、フラガの3人は何があったのか、精も根も尽き果て、真っ白に燃え尽きてしまっていたのである。その代わりと言ってはなんだが、フレイ、カガリ、マリュ―はお肌もつやつや、ストレスの欠片も感じさせない笑顔で甲斐甲斐しくそれぞれの相手を看病していたという。 お・し・ま・い |
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