穏やかな日々

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穏やかな日。

「お前、フレイ・アルスターが好きなんだろ」

昼下がりの食堂、その一角。
言葉をオブラートに包むという事を知らない友人が、
今日ばかりは恨めしく思えた。
あまりに唐突で、否定の言葉を探す暇もなく、急速に頬が火照るのを感じる。

「あ、赤くなった。やっぱそうなんだ」
「やめなさいよトール」

そう笑うもうひとりの友人も、言葉とは裏腹に随分楽しそうだ。

「だってさあミリィ。こいつ自覚すらしてなそうなんだもん。なんて言うか、奥手だし。だから俺が応援してやろうと思って---」

まったく偉そうに、とキラは思う。
それともつい先日まで恋に悩んでいた反動だろうか。
傍らで笑う美少女を射止め、最近のトールはやけに機嫌がいい。
それはしょうがないけど、だからって。

確かにフレイ・アルスターは可愛いし、彼女を見つけるたびどきどきする。
だけどそれは自分だけじゃない。彼女は学園でも抜きん出て目立っていたし、彼女に恋心を抱く男はたくさんいるのだろう。そんな子に告白する勇気はない。ましてや付き合うなんて。それこそただの妄想でしかない。

だからキラは密かに、心の奥で彼女を想うだけで充分だった。だけどトールにさんざんつつかれて、ならばと可愛いと思うことを告げたのに。フレイの友人であるミリアリアにそれを言うなんて。

少し不機嫌に俯いたキラに、さすがのトールも悪かったよと謝る。顔は笑っていたのだが。だけれどトールは憎めない何かがあった。今の自分にはトールのような友人が合うとキラは思う。彼には随分助けられているし。そう思うと許してやろうという気になり、キラは食べかけのパンを再び口に運んだ。

その時。

「あ、フレイ!」

ミリアリアの声に、心臓が飛び出るかと思った。

「ミリアリア。今頃ご飯?」
「そう、私たち今日は午前だけだから---フレイはひとり?」
「うん。次の授業まで空きがあるのよ。ね、座っていい?」
「勿論!そこ座んなよ」

そこでトールが声をあげて、キラの隣の席をすすめる。

なんてことを!
全く学習してないじゃないか!!
そう叫びそうにもなったが、勿論そんな事できるわけない。
トールの視線を極力無視するように俯きながら、キラはパンを囓った。


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