輝く未来へ  −序−



ごめんなさい…
わたし、キラに酷いことを言った…
だからずっと、謝りたかった…
もう一度会って、ちゃんと話したかった…

『ごめん… あとで…帰ってから』

苦しそうに、そう呟いたあなたの心には、いったい何がつまっていたの?
すぐ、その時は訪れると思っていた。
キラは強いから。
すぐ、いつものように帰ってきてくれると思ってた。
戦いに疲れて、その心を痛めて、泣きそうになっても、
私の元に、必ず…

間違ったのなら、やり直せばいい。
きっと、やり直せる。
いつの間にか、わたしは、キラを…
誰よりも必要としていたの。


だけど。
キラは戻ってこなかった。
キラはわたしの前から…いなくなってしまった。
あの時伝えられなかった言葉…
お互いが飲み込んでしまった言葉…
もう、決して届くことはないと思っていた。

そう、あの時までは。



輝く未来へ  1−1

 ナイトランプに仄かに照らされただけの薄暗い室内に、くぐもった息づかいが二つ絡み合う。
「…あ…っ、フレイ…」
「ん…っ…キラ…ぁ」
 キラは、わたしの胸に顔を埋めている。
 キラの熱い吐息が、わたしの肌に心地よい火照りを与える。
 わたしも思わずキラの頭を抱えるように手を回してしっかりと抱き寄せた。
「フレイ……あの、僕、もう…っ」
 キラが切なそうな声をあげる。
「…や…まだっ…お願い…キス…して」
 わたしは、精一杯の甘ったるい声でおねだりをしてみた。躊躇うようなぎこちなさを残しながら、キラが体を起こす。
「うん…フレイ…」
 目を閉じ、少しあごを突き出すようにキラを待つ。
 はじめはゆっくりと。そして力強く押しつけられるキラの唇。
 わたしは、自分からキラの舌を求めた。
「んっ…ちゅっ…ぴちゃ…っ」
 唾液がいやらしい音を立てる。艶めかしく絡み合うお互いの舌…
 体中のいろんな部分でキラの体温を感じる。
 服の上からはほとんどわからない、キラの逞しい胸板。
 いつも折れそうで、弱々しい表情ばかりで…そんなキラの外見からはギャップがあった。
 …やっぱりコーディネイターなのね、と実感するところでもある…
「んふっ…」
 吐息を吐き出すのと同時に唇が離れ、糸を引くような唾液が二人の唇を結ぶ。
 体を起こしたキラが、横たわるわたしを熱い眼差しで見下ろしている。
 わたしは、両手をひろげてキラを誘った。
「…いいわ…キラ…来て…」
「うん…入れる…よ…」



輝く未来へ  1−2

 キラの動きは、まだどことなくぎこちない。ゆっくりとした動作でわたしの両脚を割ると、固くなった自分自身を脚の間に押しつける。
「…あっ…」
「ごめん…まだ、痛い…よね」
 わたしが切なそうな声をあげた為に、キラは腰を引いてしまった。
 正直、まだキラのを受け入れるには痛みが伴う。でも…それだけではない何かがわたしの中には芽生え始めていた。
 キラのを感じてついあげてしまった喘ぎだなんて、さすがに自分でも恥ずかしい…
「いいの…わたし…大丈夫だから…ね、キラ…」
 優しく囁くと、キラは再びわたしに覆い被さってくる。
「…フレイ…っ」
 キラのその吐息と共に吐き出された声と一緒に、わたしたちは繋がった。
 焼けるように熱いキラ自身がわたしの体内に埋まる。
 …さっきのキスよりも、もっと熱く、もっと激しく、そしてはっきりとキラの体温を感じる…
 一度入ってしまうと、もうキラは欲望の赴くままとなる。
 わたしは、ただ、それをじっと受け入れるだけ……
 ただ、耐えるだけ………
 その筈だったのに。
 わたしの中にもこみ上げる、この熱い想いは何?
 荒々しく突いてくるキラに応えるように、わたしも思いっきりキラを抱きしめていた。
「キラ…キラ……ぁっ」
 その名を呼ばずにはいられなかった。
「フレイ…フレイっ…僕…っ、よすぎて…っ」
 キラも耐えられなくなったのか、わたしの名を呼び返しながら突き上げるピッチが上がった。
 じゅぷじゅぷっ…じゅぷっ…
 接合部がお互いの潤滑液でびしょびしょなのがわかる…
 恥ずかしい…
 でも、その気持ちが逆にこの甘美な愛撫を燃え上がらせてしまう。
「僕…もう、イキそう……っ」
 切なそうにキラが呟く。
「いいわ…キラ……わたしはあなたを全て受け止めてあげる……」
 下腹部を繋げたまま、わたしは、キラを精一杯優しく抱きしめた。
「…フレイ………っ」
 キラの体が激しく痙攣するように震え、熱いものがわたしの中に注がれるのをわたしははっきりと感じていた。

……

 そこで、わたしは目が覚めた。



輝く未来へ  2−1

 強襲機動特装艦アークエンジェル級二番艦"ドミニオン"…
 そのドミニオン艦内の個室で、フレイ・アルスターはベッドに体を預け、休息を取っていた。

 ベッドの傍らで、目覚ましのアラームが電子音を奏でている。
「…ん〜」
 シーツに包まれたままフレイは手を伸ばすと、そのしなやかな指先でアラームのスイッチに触れる。
 音が消えてから、フレイはもぞもぞとベッドの上で半身を起こした。
「…起きなくちゃ……」
 眠い目をこすりつつ、パネルのデジタルを確認する。
「…3時間ちょっと」
 ふぅっ、と肩を落としてため息をつく。
 さすがにちょっときついな、とは思う。でも、これが自分の選択した道なのだから、と納得しなくてはいけない。
 そろそろ交代の時間だ。しっかり目を覚まして準備しないと、決められた時間に間に合わない。
 部屋の空調は快適に合わせられていたが、やけに肌がべとつく。
 かなり寝汗をかいたらしい。
 シャワーを浴びようと思い、フレイはベッドから降りようとした。
 ふと、股間の違和感に気づく。
「…やだ、濡れてる…」
 そうか、とフレイは思い当たった。
 夢…
 キラとのセックスの、その場面を夢で見てたんだ…
 その為に、彼女の瑞々しい肉体は健気にも反応してしまっていたのだ。
 羞恥心よりも、こんなにも彼を求めてしまう自分自身にフレイはより一層キラへの想いを強くする。
「キラ…っ」
 思わずシーツを胸にしっかりと抱きしめる。涙の粒がいくつもフレイの頬を伝ってシーツを濡らした。
「逢いたい…早く逢いたい…逢って話がしたいよ、キラ…っ」
 こみ上げてくる想いに突き動かされるように激しく嗚咽するフレイ。
 ひとしきり泣いて、泣いて、泣いて…
 やっと落ち着きを取り戻しつつあったとき、コンソールパネルのコールランプが点灯し、呼び出しのブザーが鳴り響いた。



輝く未来へ  2−2

 もしかして戦闘?
 と、フレイの心はざわついた。
 戦いへの恐れと、その一方でこの艦・ドミニオンの戦う相手がアークエンジェルであるが故の、ある種の期待感…
 呼吸を整えつつ、寝乱れたままの姿を見られぬように、音声端末だけをオンにする。
「はい。フレイ・アルスターです」
「…良く休めたか? アルスター曹長」
 その凛とした声は、この艦の艦長、ナタル・バジルール少佐だった。
「ありがとうございます。バジルールちゅ…あ、いえ少佐」
「…相変わらずだな。フレイ・アルスター」
 ナタルは苦笑しつつ続けた。
「そろそろ交代時間だが、上がって来られるな? …君も慣れないことばかりで大変だろうが…」
「大丈夫です。これから準備しますけど…」
「…そうか。慌てる必要はないが、なるべく早く心がけてくれ」
「わかりました。艦長」
 そこで通信が切れた。
 良かった…幸い戦闘配備の招集ではないようだ。フレイはほっと胸をなでおろした。
 …いろいろな縁があり、ナタルはフレイをかなり気遣ってくれている。
 この部屋も本来はナタル専用の個室だったが、乗艦している女性兵士がナタルとフレイの二人のみという状況を鑑みて、相部屋ということになっている。
 フレイ・アルスター、彼女の立場そのものも非常に特殊である為、ナタルは実にきめ細やかにフレイの世話を焼いている。
 …以前のナタルからは想像もつかなかったぐらいに。それはナタル自身も感じていることではあったが…
 アークエンジェルにいたときは、フレイにとってもナタルはある意味「怖い」存在だった。
「軍人」然としていて、規律に厳しくて…
 アラスカで一緒に転属を命じられ、二人共々大きな運命のうねりに翻弄された感がある。
 フレイ自身が、ザフトの庇護化にあって今まで見えなかったものが見えてきたように…
 ナタルにとっても大きな心情の変化を余儀なくされた、と言うことなのであろうか…
 ともあれ、今はナタルが頼もしい。フレイにとって、とても頼りがいのある女性になりつつあった。
「とにかく…シャワーだけは浴びておかないと…」
 汗でべとついた肌、そして湿った秘部…曲がりなりにも仕事をしに行くのだから、体を綺麗にして身だしなみは整えないといけない。
 その辺りの気遣いもあったからこそ、ナタルも「慌てる必要はない」と言ってくれたのだ。
 フレイは個室に備え付けのシャワールームに向かった。
 湿った下着を全部脱ぎ去り、コックをひねった。
 たちまち熱いお湯が噴き出し、フレイの肌を打つ。
 生き返る……まさにそんな感じ。
 クヨクヨして、停滞しているわけにはいかない。
 今は、自分から前へ踏み出していかなければならないのだから。
 フレイは全身にまとわりつく澱みを洗い流すかのように、その艶やかな裸体を温水の飛沫に晒した。
「やり直すんだ、絶対…わたしは…それが、みんなへの償い…だもの」



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