二人で一人(仮題)

【ご注意】
1)これは、種最終場面からの後日談です。あのフレイ様散華に嫌悪感がある方は読まない方がいいかもしれません。
2)キラの一人称で書きますので、それに嫌悪感がある方も読まない方がいいです。
3)あれから種の世界がどうなるかはそれぞれ皆さんお考えがあると思いますし、いろいろ設定の間違いもあるかもしれませんがご容赦を。


 1

 潮騒が聞こえる。
 ここはオーブ了解ぎりぎりにある孤島の1つだから、僕には何年も聞き慣れた音だ。
でも、心落ち着く音でもある。まだ、日が昇るには早い時間だ。
「起こしてしまった?」
聞き慣れた声が僕に語りかけた。
だけど、この声は潮騒と違って、最先端の音声・音波探知分析装置でも聞き取ることはできないだろう。そう、僕にしか聞くことのできない声。
「いいや、大丈夫だよ。また、話そうか?フレイ」
 明かりをつけ、僕は机に向かった。


 2

 宇宙を漂う僕を、トリイに導かれたアスランとカガリが見つけ、二人の存在を肌で感じたとたん、僕の意識は途絶えた。
 次に、僕が意識を取り戻したのは医師や看護婦に囲まれた病院らしきベットの上だった。僕の目の前にいた医師は不安げな顔で僕にこう尋ねた?
「君は、キラ・ヤマト君だね?」

「はい。」あんまりはっきりしない意識の中で僕は答えた。そして、今までのことを思い出している中で、僕が常識としていたものの中では聞こえるはずのない、だけど、僕が直接聞きたいと願った声が聞こえてきた。

「よかった・・・・・・・」
あの、激しくて優しいフレイの嗚咽する声だった。


 3
 
 日にちがたって、医師達に聞いた話によれば、僕が医学的に意識が戻った時の第一声は、「キラがどこ?無事なの?」だったそうだ。そして、名前を尋ねた時「フレイ・アルスター」と名乗り、しきりに僕の安否ばかりいたそうだ。
困り果てた看護師の一人が手鏡を持ってそれに顔を映したとたん失神したらしい。

 僕が意識を取り戻して以来、フレイは誰も周りにいない時いつも僕に話しかけてきた。
話せなかった、会えなかった隙間を埋めるように僕はいろいろなことを話した。病院の検査の時もフレイはおもしろがって話してきた。僕はおかげで病院にいる間全く退屈しなかった。

 後で聞いた話だが、医師達はこれは深刻な事態だと受け止めていたらしい。僕と特殊な出生もあって、完全の隔離して病院から出すべきで強硬な主張をした医師もいたらしい。
ただ、結論は全くまとまらず、僕は外傷もあったこともあり、病院暮らしを余儀なくされた。
面会謝絶もしばらく続いた。


 4

 困り果てた医師達は、かってメンデル研究所の研究員であり医師でもあった僕の育ての両親を呼び出し、意見を求めたらしい。両親は困惑しながら、
とにかく僕に会わせて欲しい、話はそれからだと主張し、それは受け容れられた。

 そのころには僕はフレイとスムーズに会話できるようになっていた。フレイは幼い頃母親に早く死なれ寂しかった話や、僕を妬かせようと父親がいかにかっこ良かったかとか話してくれた。それを聞いた僕は逆にあまり両親の話はできなかった。本当の両親でないと完全に知ったばかりでもあったし。それでも、少しずつ話し出すとフレイはずいぶん興味を持ったようだ。で、僕の小さい時の話を聞きた
がった。僕がなかなか話そうとしないので、よくふくれたりもした。育ての両親が僕の病室に来たのはそんな時だった。


 5

 後から聞いた話によると、二人とも僕の第1印象は「元気そうだ」というものだったらしい。父は「お前が生きていて良かった、今まで来れなくてすまない」
と言って、たわいない世間話を始めた。ある意味病室に隔離されていた僕は、その話で今世界がどうなったのかをようやく知ったぐらいだった。ただ、それは、今の僕には興味のない話だったが、話を合わせていろいろ聞いてみたりした。それよりも、話している父の顔に困惑の表情が浮かんでいたのを僕は見逃さなかった。
隣の母は笑顔を浮かべながら父の話に相づちを打ったりしていたが、瞳を隠すよう薄目を開けたような笑顔だった。
 そして、父の話が一通り終わった後、母は言い放った。
「ねえ、キラ。フレイ・アルスターさんとお話しさせてくれないかしら?」


 6

 僕は困惑した。医師が最初に聞いたという第一誠以来フレイの声を他人に聞かせたことがなかったし、僕の中にフレイがいることは知られてないとそのときは思っていたからだ。だけど、フレイは即座に反応した。
「話さしてくれる?ううん。話したいの!」
 僕は一瞬拒絶しようと思ったのだが、やめた。それで、僕の中のフレイが消えるのが怖かったからもあるが、フレイが母と何を話すのか興味もあった。

「初めまして、キラのお父さん・お母さん。フレイ・アルスターです。お会いできてうれしいです。」
 僕の声帯を通して話し始めたフレイの声は明らかに僕のものではなかった。
かといって、僕が知って、いつも話しているフレイの声でもなかった。しかし、口調や言葉遣いは僕がいつも話しているフレイそのものだった。

 母とフレイの会話は問診というようなものでなく、あくまでも世間話的だった。
僕とフレイがいつ頃ヘリオポリスで知り合ったのか、そして病室ではどんなことを話しているのかとか。戦争の話は巧みにはぐらかしながら。フレイの方からはやはりと言うか僕の幼い頃の話を聞きたがった。僕のいたずら話とかを声を上げて笑ったりして、僕は大いに恥ずかしい思いをしたものだ。
話に区切りがついたところで、
「ありがとうフレイさん。じゃあ、キラに変わってくれる?」
と、通信を変わるようにでも母はフレイに頼んだ。
フレイが「はい」と答えた後に、僕の言語音声機能は完全に僕のものに戻った。
「フレイさんと話させてくれて、ありがとうキラ。じゃあ、また来るわね。」
どことなく呆然としていた父を促して母は病室を去った。
「面白いお母さんね。」フレイはそう僕との会話を始めたが、僕は今ひとつ釈然としなかった。なぜ今頃父母が来たのだろうと。フレイはそんなことお構いなしに母が話してくれた僕の小さい頃の失敗をからかいだした。僕もそれにむきになることで漠然とした不安を追い払うことができた、このときは。

 同じ頃、病院の会議室では担当医師達が僕の両親の報告を聞いたいた。
そして、母はこう結論づけた。
 「キラにアスラン・ザラとその同行者と面会させて下さい。その同行者にはフレイ・アルスターをよく知る者を必ず加えることを。」



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