どうか深層心理へ


帰ったら、話を聞くよ。
帰ったら、やり直そう。


「父が・・・死にました」

そう告げた後、耐えるような、耐えられぬような表情をしたかと思うと、ラクスが泣きながら僕の胸に飛び込んできた。
震える小さな肩を見ていると、胸が締め付けられた。

でも、その彼女の肩を包むことは出来なかった。
何故か、出来なかった。


出来なかった。
彼女を慰める事など。
泣きながらサイの胸に顔を埋めるフレイ。
惹かれる人に、引き裂かれるような言葉をかけられた僕は、罪悪感のような傷心のような後悔のような、今となっては何かよくわからない感情に狂いながら泣き叫んだ。
なぜ、逃げたのだろう。もっと謝ればよかった、抱きしめたかった、せめて、許して欲しかった。
でも僕は、あの時部屋を出て行った。これ以上つらい言葉と、そしてフレイを慰めるサイを見ていられなかったから。


「キラ・・突然すみませんでした。少し、楽になりました」

僕の胸から顔を上げると、ラクスはまだ泣き後が残っている顔のまま、目を伏せて静かに頷いた。
次に目を開けた時は指導者の顔。何かを見据えたような眼差しのまま、彼女は彼女を必要とする者達の所へと歩いていった。まだ、やるべきことは沢山ある。今はひたすら未来を突き進まなければいけないのだ。細い小川のような道をつたってでも。

それでも、すぐには消えない涙の後が、痛々しかった。


フレイは、何度泣いたのだろう。フレイ、君はあの後何回泣いたの?
君が父親を失ってから、僕は君が泣くであろう回数を、少しでも減らしてあげられたのだろうか。
きっと、そんなことはなかったかもしれない。
泣いていたのは僕。
泣きたかったのはフレイ。
でも、泣いたのは僕。
今になって思う。僕は、泣いていたであろうフレイを抱きしめるべきだったと。

そう思うと、無性に彼女を抱きしめたくなった。
でも、もう僕の傍に彼女はいない。


「キーラー」
「えっ」

急に呼びかけられ、僕は少し驚いた。そんな僕を見て、呼びかけたカガリはしょうがないな、と笑いながらつぶやいた。

「カガリ、アスランの怪我は・・・」
「大丈夫だろ。アイツ結構丈夫だし。それに、私からの・・あーえーっと、まぁ、うん、丈夫だから」
「・・・?そっか」

言葉の途中でなにやら声のトーンが高くなったけれど、どうかしたのかなぁ・・・。
少しの沈黙の後、カガリが強気な、でもあたたかい笑みを向けて、僕の背中を叩いた。

「・・・・苦しいよ、な?」
「・・・。」
「でも、みんなだってきっとそうなんだ。それでも頑張ろうとするから、やっとつかめるものだってあるんだ」
「例えば?」
「例えば、幸せな未来とか」
「誰が?」
「欲しいと願う人々皆に。私はそういうのが欲しいな」
「僕も?」
「お前がつかむんだよ」

つかめるのだろうか。そんなこと、そこまで考えたことはなかった。

「お前ならつかめるよ。少なくとも、私はお前を支えようと思う。お前が知らないだけで、そう思っている誰かがどこかにいるもんだよ」

そう言うと、カガリはじゃあな、と言い僕の前を歩いていった。一度振り返り、

「それから、これは私からの個人的な言葉だが・・・頑張って頑張ってそれでも頑張って頑張ったら、お前の好きに生きろ。お前は自由だよ」

という言葉を残して。

自由にするための光が自由になる。僕は何をするだろう。
間違いなく、フレイの言葉の続きを聞きに行くと思う。
その時、彼女はまだ僕にお帰りと言ってくれるだろうか。
もし彼女がお帰りと言ったら
ただいまと僕が言う。
彼女が笑ったら。
抱きしめよう。

もう同情はいらないから、
あの時より、僕は少しでも強くなれたと思うから
だから、もう同情しないでいいから
そしたら、今度こそ好きになってもらえるよね。
好きになってもらえるよね。

会いたいよ。
ワガママなんて言ってられない。
でも、会いたいよ。


帰ったら、話を聞くよ。
そして、やり直そう。



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