紅い髪の少女へ ミリアリアの場合 1



補給のための停泊。おかげで、今日はゆっくりできる。
そうは言っても、いつ戦闘があるかわからないから、気は抜けない。
少しの間に、自分は心ごと軍人になってしまったのかな…と
たまに、思う。
マリューさんや…ナタルさんに比べれば、この程度で軍人なんて
言っちゃいけないのかもしれないけど。

こうなってしまったのは、いつからだろう。
トールが、…いなくなってしまった日から?

お風呂の順番が、回ってきた。

バスルーム手前の脱衣室に、大きな鏡がある。
私は思わずそこに映る自分を、覗き込んでいた。
「あ〜あ、髪とか、ぼさぼさね」
眼のまわりにも、くまがある気がする。

髪も肌も、戦争が終わったら、ちゃんと手入れしなきゃ。

そう思ったら、ふっと、ある光景を思い出した。
ううん、何度も同じことを思い出してる気がする。
お風呂の時間のたびに、思い出しているような…既視感、だろうか。



紅い髪の少女へ ミリアリアの場合 2



「なによ」
「なによ、って…フレイこそ何よ、何やってんの?」
「パックよ。見てわかんない?」

下着姿のままのんびりとパックをしてるフレイを見て、
戦場でパックなんて!とあの時は思った。
でも今から思えば、私のほうが「戦場に立ってる」なんて
舞い上がってたのかもしれない。

お父さんの前で、きちっとしてたかったのよね、フレイ。
たとえばもしトールが帰って来るなら、私は恰好なんてぼろぼろでも、
とびきりの笑顔で迎えたい。それが一番だと思うから。
でもフレイにとっての一番は、きっと
『大西洋連邦事務次官の娘らしい、きちんとした恰好』だったのよね。

もう、会えないんだもんね…
フレイはパパと、私はトールと。
そういえばフレイは、キラが生きている事も知らないんだ。
フレイはキラのことどう思っていたんだろう。
やっぱりコーディネイターのことなんて好きになれなかったのかな。
本当はサイのことが好きだったのかな?
二人の間で好き勝手やってるみたいだったけど、
お父さんがいなくなってから、思いつめてたような気もする。
お父さんの代わりが欲しかったのかな…。



紅い髪の少女へ ミリアリアの場合 3



フレイ、今どうしてるんだろう。
もう私たちみたいに、戦闘につぐ戦闘であくせくしなくていいけど、
でもお父さんもお母さんもいないし、
転属ってことは、一般の暮らしに戻れるわけじゃないから
知らない軍人に囲まれているのかな。
政治家の娘の地位を悪用されてないといいけど。

 * * *

彼女に初めて会ったのは、サークルの新入生紹介の時だった。
「フレイ。フレイ・アルスターよ。よろしくね」
そう、にっこり笑っていた。
「先輩には、よろしくお願いします、だろ?」
サークルの先輩にそう言われて(言いながら先輩は鼻の下伸ばしてたけど)
「あっ、ごめんなさァい」
甘えた声でそう答えていた。
そして次に「よろしくお願いします」と言い直した時、
その言い方や頭の下げ方が、あまりにも滑らかで完璧すぎて、
周りはひそひそと「やっぱ政治家の娘は違うよなあ」とか言い始めたんだっけ。
それが聞こえたらしくて、彼女の顔が曇った。
さっきの笑顔がとても無邪気だっただけに、その表情の変化は見ていても辛かった。
私は思わずそんな彼女に手を差し出していた。
「あっ、…ねえ」
「え?」
「私には敬語とか使わなくていいから。
私はミリアリア・ハウ。ミリィ、って呼んでね★」
「…ありがとう、…ミリィ」
彼女は素直にそう言って、また、大輪の花がほころぶような笑顔をみせた。



紅い髪の少女へ ミリアリアの場合 4


実際話してみると、彼女はかなりワガママで、
でもとても素直で、思ったことが顔に出る子だった。

だいぶ打ち解けた頃、初対面の時の事が話に出た。
「特別扱いとか、されたくないわよねー?」
と言う私に、フレイは口を尖らせて答えた。
「だって、パパのことばかにするんだもの」
「えーっ。そうだったの?」
この子、ちょっとずれてる、と一瞬思ってしまった。
だがフレイは私のリアクションには気もとめず(これもフレイのいい所だと思う)、
ぶすっとした表情のまま機関銃のようにまくしたてた。
「パパはすっごく頑張ってるのよ。
休日なんてぜんっぜんないし、普段だってユーラシアや他の人たちと
会合だなんだって言って、帰ってくるの遅いもの。
それでも家ではいつも、にこにこ笑って、色んな話してくれるの。
海外出張から帰ってきたときは、必ずおみやげ買って来てくれるし。
パーティーではね、食べ方とか挨拶の仕方とか、パパの言う通りにしたら
いつだって『いいお嬢さんですね』って誉められるの。
そのたびにパパがすごく嬉しそうでね、だから私もすっごく嬉しかった。
なのに、あの人たちっ…」
「…フレイ…」
あれから結構たっているのに、フレイは下唇を震わせて怒っていた。
さっき、ずれてるなんて思ってしまったことを、私は反省した。
きっとあの時フレイは、本気でつらかったんだ。
「でもじゃあフレイ、よく怒らなかったわねー?」
そう聞くと、フレイはけろりとした表情で、人差し指を唇に当てた。
「だってー、初対面の人に対しては怒っちゃいけないよって
パパが教えてくれたのよ」
「えーっ」
「第一印象は大事だもの」
呆気にとられる私を尻目に、フレイは悪びれもせずそう言うと、にこりと笑ったのだった。

 * * *



紅い髪の少女へ ミリアリアの場合 5



お父さんが死んじゃった後、あんなふうに笑うフレイを見ていない。
そういえば、オーブに留まって私たちが親と面会してた時、
フレイ、辛そうだったな。
あの時は自分がお母さんたちと会えることで嬉しくていっぱいだったけど、
悪いことしたな…。

ねえフレイ、あなたが前のように笑うことは、もうできないのかな。
誰か…たとえばサイとか、他の人でもいい、
お父さんの代わりになってあげることはできないのかな。

何もかもを元通りにはできない、
それは誰よりも、この心にあいた穴が知っているけど、でも。
戻れないわけじゃない。
フレイ、キラのことも認めてあげて?
サイも、フレイの事許してあげて?
カズイとも会って、みんなでまた、あんなふうに話そうよ。


私、頑張るから。
フレイもどこかで、頑張って。
戦争終わったら、みんなで会おうね。
みんな、…そうよきっと、もしかしたら、トールだって、
「俺が死ぬわけないだろ」って、…そう言って
帰ってきて、くれるんだから。
絶対にみんなでまた、会おうね。ね?


(ミリアリアの場合 終)


書き込んでから読んでみると、スレ違いくさい…ごめんなさい。
でも、他の登場人物から見たフレイ様ってどんなだろう、と思って書いてみますた。
一遍における描写は薄いけど、何人か重ねることで
色々な角度からフレイ様を描いてみたいので…ゆるしてくらはいm(_ _)m



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